等電位線の実験
導電シートに流れる電流の分布をしらべて等電位線、電気力線を観察する
概要 導電紙に微弱な電流を通じると紙面上の2点A,P間に電位差が生じる。点Aを固定してAP間の電位差一定であるようにPを移動させると電極間にある等電位の分布をしらべることができる。実験で得られる曲線は規則的な変化があり、おもしろい。実験器具も簡素であり中、高校の理科教材として適当である。 ’ ここで云う導電紙とはトーシャ(ミメオ)ファックス用原紙の台紙(以下 導電シート )に使用していたもので今は入手し難いかも知れない。しかし、その代用になるものは市販のものがあるし、また導電性塗料も市販しているから自作できるので「あとがき」で紹介する。 |
1.
’ fig.1のような無限長の円筒胴体の周囲の電界は
z軸に垂直に出ているからxy平面で考えればよい。 |
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’ * 一様にひろがった導体中を流れる電流を考える。 ’ 導体の各点における電流密度をベクトルで i とし、その 点の電界を E 、導体の電気伝導度を c とすれば、 ’ i=cE の関係がある。故に電流は電界に平行、等電位面に垂直。
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’ * ’実験のための装置と操作について述べる。 使用した計器は所謂テスター、可動コイル型検流計(+-15目盛、感度:1/1000000amp/目盛)、オシロスコープ(入力抵抗1Mohm,感度:20mV/cm)直流安定化電源(D.C 0〜20V,1A)スライド変圧器。また、装置全体の概観は下に示す写真 fig.5 の通りである。 ’また、FAX用原紙紙の取り付け方は以下の通りである。 ’厚さ10m,幅30cm,長さ40cmの木板の上に厚さ1mほどのボール紙(電極と導電シートとの接触を良好にするため)を敷き、その上に記録用白紙、その上に伝票複写用のカーボン紙、一番上に導体面として使用する所謂ミメオファクス用の導電シートを重ねる。 ’ミメオファクスは商品名かも知れないがペン書きの原稿から謄写用の原紙を放電によって作る器械で、その原紙は放電の対電極としてカーボンを均等に塗った台紙(導電シート)に貼られている。通常は印刷用輪転機にその原紙をとりつけて導電シートを剥がして捨ててから印刷をする。 ’その、捨てた導電シートをここでは実験用の導体面として使用する。 ' 還暦をとうに過ぎた老人が若いときに物理の授業をしながらこんな実験機材を作ってワイワイやっていた話をしても、「トーシャ(ミメオ)ファクスってなに?」なんてことになりかねないのではないだろうか。 ’ HOME PAGE 作成の練習を兼ねて昔のこのレポートを多少中身を直しながらパソコンのキイをたたいている。 ’ ところでこの導電シートは本来は廃棄されるものであるが大変よくできていて表面に塗られているカーボンが均質であるため電流の流れ方に乱れがなく理論上予想されるきれいな電位曲線が得られる。 ' 電源としては50〜60c/sの100Vをスライド変圧器で10V程度に下して使ってもよい。このときはオシロスコープを使う方が交流波形を見ながら電位差の検出がし易いかも知れない。 |
2.基本的な考え方 ’ 等電位線と電気力線はたがいに垂直な関係にあるから、等電線に垂直な電気力線を電極の設置を工夫することで見ることができる。このことを以下で説明する。
' そして(a),(b)の電界と等電位線の関係はそのまま(b),(a)の等電位線と電界の関係に対応しているから、1枚の導電シートで電極を図のように差し替えて2種の等電位線を描けばそれらは互いに直交する2種の曲線群と見えるだろう。 |
’ これは互いに直交する2種の曲線群を壊さないように相い対する電極の配置を変えることをしているわけである。 ’ しかし、決して飛躍した考え方ではないとは思うが、fig.7 で複素平面上の4点Z1,Z2,Z3,Z4は写像:Z=exp(Z) によってそれぞれ複素平面上の4点W1,W2,W3,W4 に対応し長方形(Z1,Z2,Z3,Z4)がその内部と境界に存在する図形のすべての角を変えずに扇型(W1,W2,W3,W4)に写像することと同等であり、与えられた図形の属性としての角だけを保存して他の図形に写像する一種の等角写像である。 |
3.実測曲線
![]() ’ 図は電圧を加えたときに考えられる電流の流れる様子であり電気力線である。導体の中をいろいろな形の障壁を越えてどのように電流が流れるかを考えて見ることは実験への興味を刺激し、よい観察力を引き出すだろう。 |
’ 計測によって得られる曲線はこの電気力線に垂直な曲線群すなわち等電位曲線である。2.で述べた通り電気力線と等電位線は直交しているから fig8-1 の等電位線、電気力線はそれぞれ fig8-2 の電気力線、等電位線と同じ形になっているはず(!?!?)である。 ’ 下の写真( fig 9 )は 1枚の導電シートを一辺 20cm の正方形にきりとって、fig 8 の2通りの電極の配置をして各点の電位をプロットして実測曲線を描いたものである。 ’ 曲線に沿って実測点のプロットの痕跡が見えるけれども得られた曲線は実験の容易さのに比べて驚くほど正確と云える。 |
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![]() ’ (fig10-1)の真中の短い電極には+の電圧がかかっていて、他の電極にはーの電圧がかかっている。右の写真は (fig10-1)の実験台であり、中央に電極の切れ目が見えるであろう。 ’ また、( fig10-2 )の2つの黒い電極ぬは+ とー の電圧がかかっている。 |
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![]() ![]() ’ 例えば,この2つの曲線を1枚の導電シート上で描くと右端の図および以下に示すような、slitが電極に対していろいろな角度をとるときの等電位線、電気力線の変わり方が、翼を通り過ぎる気流の変化のように見えてくるだろう。 | |
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4.実験で考えたこと(考察)
![]() ’ 導電シート上の各点の電位を測って等電位線をたどるわけであるが電位差を直接測るためならなるべく高精度の電位差計か入力インピーダンスの高いオシロスコープがあればよい。なるべく高精度の電流計または検流計でもよい(この場合は電流の指示が0で等電位とみなせばよい) ’ 理論的に解析しやすい曲線を得たければ電極系にたいして導電シートは寸法を大きい方がよく、また新品が望ましい。使用済みのものは印刷インクによって電気伝導度が一様でなくなっている。 ’ 得られた曲線はいろいろな自然現象、物理現象のシミュレーションとして考えることもできるだろう。 ’ 例えば一様な流れの中に置かれた円柱や翼板の周りの流れ(流線)や各点の圧力(等圧線)、水槽の底の2つの穴の一方から湧き出た水が他方の穴に吸い込まれているような場合の流線と水圧の分布とかに対応づけて考えることもできるだろう。もちろん、理想流体ではないから乱流とか境界層、粘性などなど条件まで考えられないかもしれないが・・・ 。 |
5.あとがき ’ 原文では更に数式を用いたやや理論的な考察も加えましたが、HTMLでの数式の書きかたが分からないのでここでは省略しました。 ’ 参考文献も30年以上も過ぎているので省略します。 ’ 導電性塗料、導電性ペースト、導電性シートやそれらの作り方などはinternetで容易に検索できます。 ’ 謄写FAX用の原紙(本論で使用している導電シート)ならば少しもっていますが、案外、学校の事務資材倉庫の棚の上あたりに埃を被ったまま忘れられているかも知れません。 ’ 原紙のケースには[巴川製紙所」と印刷されています。導電紙、導電シートの専門メーカーでした。internetで当所の製品リストを知ることができます。 ’ 導電シートは一般に量産品であり、均質にできていますから電位計測、電極の設計製作、取り付けを精密に行えば数値解析では得られないような複雑な曲線や境界層の問題を解くことができると思います。安易にできる物理の実験教材とばかりもけっして云えない「良さ」を持っています。 |