キジバト の 雛
キジバトが自宅の軒下に巣づくりをしてから雛が巣立つまでの観察記録
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’ もう15,6年も昔のことですが、裏庭のモミジの 木の枝の茂みの中にキジバト(雉鳩 山バト)が雛を育て ていました。高さ2m位のところで、親鳥の不在の間2羽の 雛は身を寄せ合って殆んど動きません。 ’ キジバトの巣はよく注意して見ないと分らないくらい 枯れ枝を無造作に積み上げただけのいい加減なものです。 卵のときから、落ちることもなく巣立ちまでもち応えるの が不思議なくらいです。 ’ 雛がヒヨドリ位いの大きさになった頃でした。晴れた 日の午後でしたが、突然雛の羽ばたきの音で庭に出て見る と近所の猫が巣を襲って雛をくわえて逃げて行きました。 ’ 巣の中は空でしたが、もう1羽の雛は庭の隅のリュウ ノヒゲの茂みの中で尾羽だけ出した格好で隠れていました。 ’ 子供の頃野山を歩いていると慌てて熊笹の中に逃げ込 んで頭だけ隠しているウズラをときどき見ましたが、キジ バトの雛の隠れ方はウズラのそれによく似ていました。 ’ * ’ 難を免れた雛の世話をすることになったのですが自己 流ですり餌を牛乳で溶かして注射器で飲ませていました。 ’ ダンボール箱に入れて毎日2時間の間隔で給餌を続け ましたが、10日ほどで羽毛は整い、首にもキジバト特有 のストライプがしっかりとついて、羽ばたきも力強くなっ たので家の庭から放してあげました。 ’ 宅の庭には冬の季節は竹笊に粟玉、市販の鳩の餌、パ ンくずなどを入れて木の枝に下げておくと野鳥がそれを見 つけて食べに来ます。春になったら給餌はやめますが次の 冬になるとまた集まってきます。きっとこの場所を覚えて いるのでしょう。キジバトも一羽だけで来ていたのに次の 年には2羽になりました。つがいになったのでしょう。 ’ * ’ 多少年月をかけて見ていると「キジバトの方が人間を よく見ているなあ。」と思うことがあります。 ’ 竹笊に餌を少し入れてあれば大体1日で食べてしまう。 ’ 毎日補充するわけではないのに、入れておくと必ず 見つけて来る。彼らは何箇所かの餌のある場所を回遊して いるように見えます。 ’ キジバトのつがいが縁側から奥の部屋まで飛び込ん で来たり、写真のように縁側に置いた餌をついばむように なるのに2,3年後かかりました。ドバトにくらべれば 人馴れしにくく、用心深い性格であることがわかります。 ’ つがいの仲のよさは鳥の中では first class.で終生 伴侶を変えることはありません。雛を育てる様を見ていて も互いの協力のうまさに感心します。 ’ * ’歩きながら首をヒョコヒョコ前後に動かす様は愛嬌があ るが、羽毛の色柄は地味でありながらなかなか瀟洒なもの です。茶色と灰色の組み合わせでありながら翼の斑の細 やかな濃淡、頭部から胸部、腹部にかけてのやわらかな灰 色のグラヂュエーションも素敵です。 |
![]() ’ * ’しかし、空を飛ぶときは思いのほか、羽ばたきは力強く パッ、パッと歯切れのよい動作で直線的に進む。その飛ぶ 様を、もし上空から見下ろすかたちで見たらチョウゲンボ ウなどのトビタカ類が飛んでいるように見えるのではない かと思います。進化の過程で種の保存のための、擬態がで きたのかも知れません。 ’ * ’上の写真のように、すぐ傍でつぶさに見ていても羽毛の 色柄だけでは正直云って雌雄の識別はできません。雉でも ジョービタキでも殆んどの鳥は羽毛の色柄や形で雌雄の識 別ができるのに、どうしてキジバトやマガモのように識別 不可または困難な一部の鳥がいるのでしょうか。 ’ キジバト夫婦を見ていると、巣作り、抱卵、雛を自分 の羽の下に抱き込む仕草、pigeon milk をのませる様子な どどれを見ても雌雄まったく同じようにしています。 ’ だから役が同じだから雌雄識別の必要もなくなって、 そのように進化してきた・・・というのは私の勝手な想像 ですが当たっているかも知れません ’ * ' キジバト夫婦がたびたび来るようになってから、裏庭側 の屋根の庇の下に金網で棚を取り付けました。棚に枯れ葉 と枯れ枝を少し置いて・・・巣作りを始めないかと期待を 込めたのですが・・・ |
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’ 古くなって廃棄した冷蔵庫の中仕切りの金網を網棚にし て軒下に取り付けたのですが、そのことも忘れて3年経まし た。 ’ * ’ 庭のモミジの木の枝に取り付けた竹笊に一掴みの鳩の餌 を入れておくと、ひとつがいのそのキジバトが大体日の暮れ るまでに食べてしまう。毎日というわけではなく、気のつい たときにあげる程度で、あげない日の方がむしろ多いのです が、あればきちんと食べる。見逃す、ということがない。 ’ このことからキジバトは一日の中で何箇所かの餌場を巡 回しているのではないかと推察できます。 ’ 人間には見えなくても彼らは地面や芝生、樹木の茂みの 下の枯れ葉、朽ち葉などの下に草木の実や細かい種子を見 つけて食べる能力をしっかりと持っているのだから、この 場所にはときどきおいしい餌がおいてあるかも知れない・・ 程度に思わせておく方がよいのです。 ’ * ’ 部屋から見ていると、いつも2羽で来ていたキジバトが 3月中旬頃から1羽だけになりました。不審に思いましたが すぐに分かりました。 ’ かわるがわる軒下の、例の網棚に枯れ枝を持ち込んで巣 作りをしているところでした。枯れ枝を嘴でちょっと触りな がら、チョコンと座ってこちらを見ているのです。 ’ 3年前に取り付けた網棚がやっと役に立ったわけです。 ’ キジバトを驚かさないように気を配りながら見守る毎日 がはじまりました。その頃の経過を手帳にメモしていたので 、 それをもとに日付け順にお話します。 ’ * 3/20 ’ この頃には巣作りは終わって抱卵していました。巣に留 まっている時間が長くなり、親鳥の交代の時刻が大体am9:00 pm3:30 の2回巣の上で行われるので卵が外気の温度にさら されることがない。交代から次の交代までの間はまったく時 間が止まったように巣の周囲には静寂だけがある感じ。 ’ とくに夕方から翌朝までの当番(?)は大変だなあ、と 思いたくなります。枯れ枝の巣だから巣の中は見えるが、卵 は見えない。親鳥の羽の中にあるのだろうか。 4/ 1 ’ この頃から2羽が交代するときの間合いが10秒ほど空く ようになり片方が巣から出て飛び去ってからもう片方が巣に 入る、という感じになってきました。この頃に雛が孵った感 じです。 4/ 3 ’ 親鳥は膨れている。雛を自分の羽根のなかに取り込んで いる様子です。 4/10 ’ 雛は生まれたばかりの鶏のヒヨコくらいの大きさになっ て親鳥の嘴の中に頭ごと突っ込んで餌pigeon milkを飲み込 んでいるのが見える。ねずみ色でグロテスク。 4/12 ’ この頃になると親鳥は2〜3時間間隔で交代するように なりました。交代時間は雛にとっては餌をもらう時間でもあ りますから雛が大きくなるにしたがって食べる分量も多くな る。だから親鳥は忙しくなる。その間、親鳥は大体上の図で 示すような行動を毎日続けているのが分かったので、それを 詳しく説明します。 (1) 先ず親鳥の片方が帰巣して巣から2mほどのモミジの木 ’ の枝Aにとまる。 (2) 30秒 〜1分くらいの間をおいて、巣Bにいたもう片方が ’ ムックリと腰(?)をあげて、羽音をたてないような感じで ’ フワーッ と飛び去る。その行き先は300m〜400m離れた ’ 県立美術館のある本多の森か金沢城公園C。そのいづれ ’ かでしきりと地面を歩きまわって餌をつついている。 |
![]() (3) Aで待っていたもう片方がすぐに巣に移り、待っていた雛 ’ は親鳥の嘴の中に頭ごと突っ込んで鳩乳(pig-eon milk) ’ をむさぼる。その後しばらくもぞもぞと雛を自分の羽根 ’ の下にたぐり寄せるようなしぐさをして座り込む。 (4) つぎの交代までまた静かな時間が過ぎる。雛は寝ている ’ ようだが親鳥はそうでもないようだ。物陰からそっと覗 ’ くとどのようにして気づくのか分からないが向こうもま ’ ん丸な目でこちらを見ている。 (5) ’ 地点Cからやがて巣から300m位はなれた電線上のD ’ まで来てとまり、そこで60〜70分の間動かずに、うらら ’ かな陽光を受けながらあの特徴のある鳴き声をもらして ’ いる。そのDの下は散歩コースでもあるが、宅の2階から ’ 他家の屋根越しに見通せる場所でもあることが分かった ’ ので、スポッテイングスコープで2階の窓から電線にと ’ まっている親鳥を見るとあちらもまたジーッとこちらを ’ 見ているのである。つまり親鳥は300mの距離から雛のい ’ る巣の安全を窺(ウカガ)っているのである。300mは仮に親 ’ が襲われても子には被害が及ばない距離であろう。これ ’ は意外な発見であったと思う。 ’ もうひとつ気づいたことだが、あの60〜70分という、や ’ や長い休息時間は、地点Cで食いだめをした餌を咀嚼し ’ 、消化してそれが鳩乳に変成するまでに必要な時間なの ’ ではないかと云うことである。そう考えると、のんびり ’ としたあの鳴き声の抑揚もその意味理解できる気がする ’ のである。 4/15 この頃から親鳥は2羽とも不在の時間が多くなっ ’ てきた。理由のひとつには2羽の雛が大きくなって餌の ’ 分量が増えたため、両親同時に餌探しをしなくてはなら ’ なくなったことがある。また、親鳥との距離をつくり、 ’ また給餌を延期することで雛の自立、巣立ちを刺激する ’ というような理由もあるかも知れない。 ’ 巣の上では2羽の雛は寄り添って全く動かず身をひそ ’ めているのがわかる。親鳥が帰ってくると激しく餌をね ’ だり、親鳥は嘴の中にむさぼりついてくる雛のなすまま ’ になっている。 ’ 雛はヒヨドリくらいの大きさになったが、羽毛はねず ’ み色で嘴ばかり大きく、顔月もまだイカツイ。 4/20 ゜ 親鳥の不在時間も1hから2hと長くなりその間、 ’ 雛は仕切りと羽根をしごき羽毛をそろえている。羽ばた ’ きも力強く、派手にするのでよく目立つ。こんなときに ’ 猫などに襲われるのだろう。地面に落とす糞も大きくな ’ ってきた。首のストライプもはっきりと目立ってきた。 ’ いつの間にか親鳥がモミジの木の枝にとまっている。 4/25 ’ 午後、ふと庭を見ると雛の一羽がモミジの木の ’ 枝に止まっている。枝の上でやはり巣にいたときと同じ ’ ようにして餌をもらっている。 ’ もう一羽もつぎの日にモミジの木の枝に移っていた。 ’ 二羽とも巣立ちの瞬間を見なかったけれども、これか ’ ら地面に下りて自分で餌を探し、ついばむようになると ’ いろいろな危険に出会うことになるのだろう。 ’ * ’ 何ごとかつぶやくごとく病める身をかなしむご ’ とく鳴けるやまばと 凱一 |