ch.1. 整 数

101. 整数の演算のしくみ

       代数では加、減、乗、除等の演算と演算の結果を問題にする.
      このような演算の基本的な性質は整数の演算の中にあるので、
       先ず整数の演算の性質、仕組みについて考える。




  (1) a+b=b+a                 加法の交換律
  (2) a+(b+c)=(a+b)+c               加法の結合律
  (3) ab=ba                         乗法の交換律
  (4) a(bc)=(ab)c                   乗法の結合律
  (5) a(b+c)=ab+ac                  分配律
    (b+c)a=ba+ca

 この他に整数 0 と 1 はつぎの性質を持っている。

  (6) a+0=a
  (7) a・1=a

 さらに重要なつぎの性質がある。

  (8) a+x=0 をみたす x は唯1つ存在する。( 即ち x=-a )
  (9) ab=0 であれば、 a , b のいずれかは 0 である。

整数の他の性質の中で若干のものは、以上の性質から導くことができる。
上の(1)〜(9)の性質だけを用いてつぎの (10)〜(12)を証明してみる。



 (10) a0=0 , 0a=0  
        
       証明:(6)において a=0 とおいて 0+0=0
                両辺に a を乗じて (5) を用いれば 
            a0=a(0+0)=a0+a0
                両辺に -a0 を加えて (2)の結合律により、
             a0+(-a0)=(a0+a0)+(-a0)=a0+(a0+(-a0))
                (8) により a0+(-a0)=0 だから上の式から
           0=a0+0=a0     // 
              0a=0 についても同様である。

 (11) -(-a)=a     

        証明 : (8) の x が即ち -a であるから 
                      a+(-a)=0 交換律により (-a)+a=0  
                 (8) の a の代わりに -a とおけば 
                    (-a)+(-(-a))=0
                 が得られる。上の2つの式から
        -(-a) と a は (-a)+x=0  の解である。 
                 (8) によってこのような x は唯一つ
        だから   -(-a)=a  //

    
(12) ac=bc , c≠0 ならば a=b       簡約律

        証明 : ac=bc の両辺に -bc を加えて
               ac+(-bc)=bc+(-bc)=0
                 が得られ、-bc=(-b)c なることを用いて左辺を
                 変形すれば
                    ac+(-b)c=(a+(-b))c=0    となる。
                (9) から a+(-b) , c のいずれか一方は 0 
             であるが、 仮定によって 
                  c≠0 であるから a+(-b)=0
                一方 a+(-a)=0 であって、a+x=0 をみたす x は
            唯一つしかないことから 
              -a=-b 
            ゆえに a=-(-a)=-(-b)=b        //

        (1)〜(9) は整数の演算に関して基本事項として整理したもの
        で公理ということができる。
        この中に減法は含まれていないし、勿論除法も含まれていない
     ことに注意しよう。
        しかし、(8)で示されたようにa+x=0が唯一つの解をもつから、
        これを -a と表し, a-b を a-b=a+(-b) なる形で定義すれば、
        減法が定義されたことになる。
    したがって基本的な演算は加法乗法の二つである。

 
 101-1 つぎの事実はどれだけの基本事項から証明されるか。
        a+c=b+c   ならば  a=b

  101-2 (12) はどれだけの公理から証明されているといえるか。


102. 整除と合同式

整数の性質の中で整除に関するものは特に興味のあるものが多い。



      整数 a, b, c, m について
      b=ac のような c が存在する場合は b は a で整除されるといい、
      b を a の倍数、a を b の約数という。

       たとえば 6=3・2 であるから 6 は 3 で整除され、したがって
       6 は 3 の倍数、3 は 6 の約数である。

      b が a で整除されることを a|b で表す。
      このとき、つぎのような関係が成り立つ。

       (1) m|a , m|b  ならば m|(a±b)   

       (2) m|a かつ b は任意の整数ならば m|ab

       (3) a|b , b|c  ならば  a|c



 102-1 上の (1) , (2) , (3) を証明せよ。
m|(a-b) であるとき、a≡b(mod m) と表して、a と b は m を法として合同であるという。   たとえば、15|(46-16) だから 46≡16(mod 15) である。 一つの集合 M の要素(元) a , b について、a〜b なる関係がある ものとそうでないものがあり、つぎの3つの性質をみたしているとき、 このような関係を同値関係という.

    反射律   a〜a

   対称律      a〜b  ならば b〜a

   推移律      a〜b , b〜c  ならば a〜c
このような3つの性質を同値律といい、a〜b なるとき、a , b は 同値であるという。 また、一つの定まった要素と同地な要素の全体をその要素を含む類 (同値類)という。

日常生活においてもこのような考えは無意識に行われているので あって、たとえば7日の倍数だけ異なった日を同値であると考え、 そのようにして得られた類の各々に日曜日、月曜日、・・・等の名称 が与えられる。  このように一つの集合に同値関係を導入して類に分割することを 類別という。
 整数の問題に戻って考えると、 与えられた m に対して”a と b が m を法として合同である。” という関係は同値律をみたしている。
いいかえれば

  a≡a(mod m)

  a≡b(mod m)  ならば b≡a(mod m) 

  a≡b(mod m) , b≡c(mod m) ならば a≡c(mod m)
が成り立っている。



 102-2  上の 3つの性質をそれぞれ証明せよ。






103. 整数の順序

整数には大小の関係があるので、順序をつけることにより
種々の結論を導くことができる。



 a>b なることは a-b>0 なることであるから順序に関する基本事 項としては >0 なること(すなわち 正 であること)に関する若  干の性質を挙げればよいことが分る。すなわち   (1) a>0 , b>0 ならば a+b>0   (2) a>0 , b>0 ならば ab>0   (3) 任意の a に対して a=0 , a>0 , -a>0 のいずれか一つ   が成り立つ
 
  整数の順序に関しては 絶対値 の性質も重要である。

  a の絶対値 |a| とは a ,-a の中で大きい方
   (いいかえれば 正 になる方)を表すものとすれば

     (4)  |ab| = |a||b|

     (5)  |a+b| ≤ |a|+|b|

  となることが示される。
          とくに、 a=0 のときは |0|=0 とする。



    103-1上の (4) , (5) をそれぞれ証明せよ。

    103-2 任意の a に対して a2 > 0.  ただし、 a≠0 とする。

    103-3 つぎの式ををそれぞれ証明せよ

     (1) a2 + b2 ≥ 2|ab| 

         (2) a2 + ab + b2 ≥ 0