ch 5. ガロアの理論 Galois theory

501. ガロア群 Galois group




     K = k(θ)をn次の正規拡大体とし、σ,τ,・・・・・・をKの

     k-同型対応全体とすればこれらのk-同型対応に次のように乗法を

     定義して、1つのであるようにすることができる. 

     たとえば、写像σによってα∈Kがσ(α)に写るとき、積τσを

             α⇒τ(σ(α))

    のような対応であるものと定める. すなわち

            τσ(α)=τ(σ(α))

    である.このようにして得られた n個の k-同型対応から成る群を

     K/kのガロア群といいGal(K/k)と表す.
 
        Kが正則であることから、K のσによる像のσKが集合としてはKに

    一致し、したがってσ(α)をKの元と考えることにより、τσ(α)

    が意味をもつこととなる.

    この関係を図示すればつぎのようになる.

             K → σK

                             =K → τK

                     α → σ(α)  →  τσ(α)

     ガロア拡大体のk-自己同型対応のことをガロア置換という.


 定理1

  K/k がガロア拡大体で、L が K、kの中間体であるとき
              (すなわち k⊂L⊂Kであるとき)
 Lから共役体L'への同値写像は Kの自己同型置換(ガロア
 置換)に延長することができる. 

註:定理の意味は次のとおりである. すなわち、

 Kの部分体Lの同値写像L'が与えられたとき、
 Lよりも広い体K からそれ自身への対応(ガ
  ロア置換)が存在して、この対応はL'につい
  ては始めの対応と同じ対応を与える. 
 とくにL'はKの部分体である. 
  ( 自己流の解釈:Kの部分体Lの同値写像L'が与えられたとき、             そのL'もまたKの部分体である. )        証明

    第1段 :
  
    G = Gal(K/k) の置換の中で Lの元をすべて動かさないものの全体

  をH とする. このとき K/L がガロア拡大体でそのガロア群が Hに

  一致することが証明される.


  まず KのL-同型対応は同時に Kの k-同型対応であるからK/kが正則

   であるという仮定によりL-同型対応の結果である共役体は集合として

    Kと一致する. したがってKのLに関する共役体はKと一致する.

  すなわち K/L は正則である.
  

  K/L のガロア置換は L-自己同型置換であるから

    上にも述べたように k-自己同型置換でもある. 

   したがって Gal(K/L)⊂Gal(K/k) = G である. 

  すなわち Gal(K/L) の元を求めるには、Gの元の中で 

  L を不変にするものを求めればよいから Gal(K/L)=H が成り立つ. 
    註:ガロア群については G⊃H なることを上の図のように G を     下に H を上に表わした方が便利なことが多い.

    第2段 :

  [K:L]=m , [L:k}=n とすれば [K:k]=mn である. 

  今 σをG の任意の元とすれば対応 L→σL は k-同型対応であ

  るから σLは Lの共役体である. 

   この対応L→σLが恒等置換(Lのすべての元を動かさない置換)

  となるのは σ∈H の場合である. 
 
   G の位数は [H:K]=mn であり、また Hは K/Lのガロア群であるから

  その位数は m である. 

   したがってH の G における指数は mn/m=n である. 

  このことから G を H の副群に分解したとき副群の個数がn個であ

  ることが分る. 

            G = σ1H+σ2H+・・・・・・+σnH    ( σ1=1 )

  この際1つの定まった副群 σiHの元σiσ , σiτ (σ,τ∈H)に

  よる Lのk-同型対応は、σ,τがLの恒等置換を引き起こすことに注

    意すれば、同じ k-同型対応であることが分る.

   すなわちσiHの中の置換によって Lのk-同型対応は唯1つしか得ら

  れないから、Gの置換によって得られる Lのk-同型置換は高々n個し

    かない. 

  一方もし σiH,σjHの中の置換(たとえばσij) によって Lの同

  じ置換が引き起こされるならば、β∈L のとき

           σi(β)=σj(β)  σj-1σi(β)=β

  したがって σj-1σiは L の元を動かさないから

           σj-1σi∈H , σi∈σjH 
 
  となり σi が副群 σjH に属し σiH = σjH なることが分る. 

  すなわち

  σiH,σjHが Lの同じk-同型置換を引き起こすのはそれらが一致す

    る場合に限る. 

  L/k の k-同型置換は丁度n個存在するからそのいずれもGのどれか

  の副群 σiH ( i=1,2,・・・,n )によって引き起こされる同型置換

  である.   //
    k[x]における既約多項式 φ(x)の根をα12,・・・,αnとするとき     k( α12,・・・,αn )がkに関して正則であることは前章の定理8     で証明した通りである.     そのガロア群のことを 方程式 φ(x)=0 のガロア群という.     また、k( α12,・・・,αn )=K のことを方程式φ(x)=0に属する ガロア体という.     K のガロア置換σを与えれば α12,・・・,αn はそれぞれ共役数      α1',α2',・・・,αn' に写り、これは全体としては始めの α12,・・・,αn と変らない.     したがってガロア置換に対して φ(x)の根の全体の1つの置換が対 応する.       また異なるστがφ(x)の根の同じ置換を引き起こすことは起らない。     何となれば 根 α12,・・・,αnの像が定まればk( α12,・・・,αn )の像が一 意に定まり、ガロア置換が唯1つ決定するからである.     注意しなければならないことは根 α12,・・・,αnの n!個の置換の     全部がガロア置換となるわけではないことである. ココマデcheckスミ6/9

 例1.

    有理数体 R 上の既約多項式φ(x)=x2 - 2 に属するガロア体
    は6次の体になることを前に示した. 
  この場合は
  3つの根 2のすべての置換がガロア置換となる.
    したがってガロア群は3次の対称群である. 


 例2.

    有理数体 R上の既約多項式 x4+1=0 のガロア群の群表を求めよ. 

   x4+1 の根はたとえば次のようにして求められる. 

                  (x4-1)(x4 +1)=x8-1

    であるから x4+1=0 の根は x8-1=0の根、すなわち1の8乗根の

    中でx4-1=0の根とならないものである. 

   1の冪根の一般論から1の8乗根は右の複素平面上の図のAjに
   

    対応する複素数: 
                (j=0,1,2,・・・・・・,7)
    で与えられる. 

      ド・モアブルの定理からこれらは
       ζj=  (*1)
    と表わすことができる。A1 に相当する1の8乗根は
         ζ1=
   であり、ζj( j=0,1,2,・・・・・・,7 )の中でx4-1=0 の根となるの

   はjが偶数の0,2,4,6の場合であることが容易に分るからx4+1=0 

   の根は ζ,ζ357 (ζ=ζ1)の4つである. 

    したがってx4+1=0の根によって生成された体(ζ)の共役体は 

             R(ζ),R(ζ3),R(ζ5),R(ζ7)      (*2)

   の4つであるが.ζ357はR(ζ)の要素であるから 

                 R(ζj) ⊂R(ζ)  (j = 3,5,7)

   したがって、

   (*2)の体のRに対する次数がいずれも4であることから、

                 R(ζj) = R(ζ)  (j=3,5,7)

   となり、R(ζ) はそれ自身正則な体であることが示された. 

   一般に k(α)/k が正則な体で、α=α12,・・・,αnを

   α の共役数とすれば、k(αi)=k(α>),αi=k(α>)であるから

   αiはαの多項式 fi(α)∈k|α|に等しい。

   k(α)/k のガロア群の要素は k(α) からその共役体 k(αi) 

      へのk-同型対応 σi( i=1,2,・・・,n ) であり、この対応は 

   α の像αi=fi(α>)が定まれば k(α)の要素 f(α)の像は 

   f(αi)=f(fi(α>))となって完全に定まる. 


   したがって正則なk(α)/kのガロア置換は体の置換でなくαの

      変換σi:α⇒fi(α>)=αi ( i=1,2,・・・,n ) 

   でああると考えて差し支えない. 

   f(x)∈k[x] なるとき、

   置換σiにより f(α)⇒f(αi) (=f(σii))であることは、

       f(α)の像σif(α)が=f(σi(α))であることを示す. 

     すなわち f(σi(α)=f(σif(α))  

         とくに、f(x)=fj(x)として σifj(α)=fji(α)

     左辺はσij(α))に等しく、右辺は fj(fi(α))に等し

   いから    (σiσj)(α)=σij(α))=fj(fi(α))

   この右辺を計算して fk(α)すなわちσk(α)に等しいことが

   分れば σiσjk となる. 

   我々の方程式 x4 + 1 = 0 の場合にはガロア群の要素は
           σ1 : ζ⇒ζ=f1(ζ)
                 σ2 : ζ⇒ζ3=f2(ζ)
                 σ3 : ζ⇒ζ5=f3(ζ)
           σ4 : ζ⇒ζ7=f4(ζ)
   となり、これから容易に積 σiσj を求めることができる. 
     たとえば σ2σ3 については
         (σ2σ3)(ζ)=f3(f2(ζ))=f33)=(ζ3)515

       
   この右辺で ζ8=1 に注意して 
       ζ157=f4(ζ)=σ4(ζ)
   したがって σ2σ34 が得られる。
    同様の計算によって右の群表が得られる. 
    
次の用語の意味を上の文章の中から読み取って考えよう. ガロア拡大体:k-同型対応:K/kのガロア群G(K/k):正則:ガロア置換: 同値写像:    



 問1.x4 - 10x2 +1 = 0 において先ず x = t として t の2次式
   を考えてt を求め。次にこれを平方に開いて x を求めよ. 
   この方程式に属する有理数体上のガロア体は4次の体となること
   を示せ. (ヒント:根が , なることを示し、
   これらを α , β , γ , δ とおいたとき、たとえば β∈R(α) 
   を証明するには 1/α の値を参照せよ. )

 問2.f(x) = 0 を k上の既約なn次の方程式とすればそのガロア群
   の位数は n! の約数なることを示せ. (ヒント:ガロア群は n
   個の要素の若干の置換からなる群と考えられることを証明せよ. )