定理5.φ(x) が k[x] における既約多項式ならば
φ(x)=0 は重根をもたない.
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f(x)の k重根は f'(x)の k-1重根である。 402-1→
この際 f(x)が n次の多項式ならば
f(x)=a0xn+a1xn-1+a2xn-2+・・・
f'(x)=na0xn-1+(n-1)a1xn-2+(n-2)a2xn-3+・・・
において na0≠0であるからf'(x)は n-1次の多項式
であって恒等的に 0とはならない.
証明:
φ(x)=0が重根をもつならば
φ(x)とφ'(x)の最大公約数 d(x)はφ(x)より低次で、
かつ定数でない. 402-2→
d(x)はEuclid の互除法によって求めるから、その係数は
φ(x),φ'(x)から4則により求められる.
したがって d(x)は k[x]の多項式である.
これは 既約多項式φ(x)が因数d(x)をもつこととなって
矛盾である.
すなわち 、φ(x)は重根をもち得ない. //
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定理6.α,βが kに関して代数的であるならば
k(α,β)は単純拡大である. 401→
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αが kに関して 代数的 であるというのは、
αが k[x]の或る多項式の根 となることをいう.
証明:
α,βが満足するk[x]の既約多項式をそれぞれf(x),g(x)とし、
それらの根を
α=α1,α2,・・・・・・,αm , β=β1,β2,・・・・・・,βn (*)
とする.
前定理の証明中にも述べたように αi はすべて異なり、βjも
同様である.
今 kの元 cを適当に定めて、mn個の数 cαi+βj がすべて
異なるようにすることができる.
これは有限個の方程式:cαi+βj=cαi'+βj'
すなわち
c(αi-αi')+(βj-βj')=0
が成り立たないようなcを選ぶとよい.
このような c を1つとって
γ = cα+β ・・・ (1)
とおけば
k(γ)=k(cα+β)⊂k(cα,β)=k(α,β) ・・・ (2)
が成立する.(α,β は(*)で示した根のいずれかである.)
次に方程式 f(x)=0 , h(x)=g(γ-cx)=0 ・・・ (3)
を考えれば、
f(α)=0 , h(α)=g(γ-cα)=g(β)=0
だから、これらはαを共通根としてもつ k(γ)の方程式
である.
もし αの他に(3)の共通根があれば、それは f(x)=0 の
根だから αiとおくと、h(αi)=g(γ-cαi)=0 から
γ-cαi は g(x)の1つの根 βjに対応する.
すなわち
βj = γ - cαi ( αi≠α )
なる関係が成り立つから、この式と(1)より
c(α - αi)-(βj - β)=0 402-3→
となって、c の選び方(c≠(βj-β)/(α-αi)となるように
(1)とおいたこと) に矛盾する.
ゆえに、
方程式(3)は唯1つの共通根x=αをもつことが分った.
以上からf(x),h(x) の最大公約数は x-αである.
f(x),h(x) はいずれもk(γ) の多項式だからその最大公約数
x-α の係数もまた k(γ) の元である
( 前定理でも引用されたように互除法による最大公約数
の求め方を想起せよ. )
これで α∈k(γ)が証明された。
同様に、β∈k(γ)であるから k(α,β)⊂k(γ) ・・・ (4)
(2),(4) より k(α,β) = k(γ)
すなわち k(α,β)が単純拡大なることが証明された. //
401例2→ 402例2→
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この定理をくりかえし適用することにより次の定理が得られる.
定理7.α1 , α2 , ・・・・・・ , αm が
k に関して代数的であるならば
k( α1 , α2 , ・・・・・・ , αm ) は
k の単純拡大である.
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( 得られるといっても所詮は類推である. ) 402-4→
以上の結果から代数的な元を添加して得られる拡大体の研究は、
単純拡大体の場合に還元された.
前に1つの体k(α)に共役な体の若干が一致(自己同型)することが
あることに注意したが・・・、 401例4→
すべての共役な体k(α1),k(α2),・・・,k(αm)が一致するときこれ
らは正規であるといい、k(α)を kの正規拡大体(ガロア拡大体)と
normal normal extension field(extension field of G)
いう.
これに関して・・・つぎの定理が成り立つ. 501→
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定理8.任意の体k(α)は正規拡大体の部分体である.
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証明:
α の共役数を α=α1,α2,・・・,αn として
K=k(α1,α2, ・・・ , αn)とおけばK/kは正規拡大体である。
これを証明するために Kの共役体の1つをK'としKから
K'へのk-同型対応によりαがα'に写ったものとする.
k-同型対応の性質(すなわち積には積、和には和が対応
し、kの元はそれ自身に対応すること.)から
任意の多項式 f(x)∈k[x]に対してf(α)=f(α')である.
とくにαの満足するk[x]の既約多項式φ(x)に対しても
φ(α)(=0)→φ(α') である.
一方 0→0 であるから φ(α')=0 であり、α'はα
の共役数の1つであることが分った。
したがって α'∈k(α1,α2,・・・,αn)=K である.
同様にしてKからK'へのk-同型対応によって任意のαiの
像αi'がK の元であることも証明されて
K'=k(α1', ・・・ ,αn')⊂K となる.
ところが K,K'は同型であるから k上同じ次数をもち、上の
不等式から K=K'が得られ、任意の共役体が一致することが
分った. // 501→
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αの共役数α1,α2,・・・,αnを添加して得られた上記の正規拡大体
k(α1,α2,・・・,αn) は、k(α)を部分体にもつ最小の正規拡大体
である.
定理9. 任意の2次体は正規(正規拡大体)である.
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証明:
k(α)/k が2次方程式 φ(x)=x2+ax+b=0 の根αを添
加して得られた2次体であるとする.
αの共役数をα'とすれば
φ(x)=x2+ax+b=(x-α)(x-α')=x2-(α+α')x+αα'
であるから
α+α'=-a したがってα'=-α-a∈k(α)∴k(α')⊂k(α)
同じように k(α)⊂k(α') であるから
k(α') = k(α) が成り立つ. //
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前定理から任意の体は正規拡大体の部分体と考えることができるから、
正規拡大体の性質を調べることによってその部分体である一般な体の性質
を研究することが可能となった.
次章で見られるように正規拡大体においては群論の結果を応用すること
ができて
方程式 ⇔ 体 ⇔ 正規拡大体 ⇔ 群
なる関連によって方程式の解法に群論が適用されることになる.
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例 1
(1) kにx2+1=0 の根を添加してできた2つの共役体:
k(i),k(-i) は k(i)=k(-i)だから正規拡大体である.
401例3→
(2) kにx3-2=0 の根を添加してできた3つの共役体:
k( ),k(ω ),k(ω2 )
は一致しないから、正規拡大体ではない. 401例4→
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例 2
有理数体Rに を添加した体を含む最小の正規拡大体
を求めてみよう.
の共役数は ω , ω2 ( ω は 1 の虚数立方根 )
であるから求むる体は K=R( ,ω ,ω2 )である.
,ω ∈K であるからその商 ωも Kの元である。
したがって R( ,ω)⊂K
一方 ω ,ω2 はいずれも R( ,ω)の元であるから
K=R( ,ω) である。
定理6の証明で c=1 として K = R( +ω)
これが求める正規拡大体である. //
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ω は ω2+ω+1=0 をみたすからR上で2次の体 R(ω)
を生成する.
したがって ωは R( )に関しても高々2次で、
これが丁度2次であることも分るから
Kは R( )に関して2次の体である.
したがって求める正規拡大体の次数は
[K:R]=[K:R( )][R( ):R]=2・3=6
に等しい.
次の用語の意味を上の文章の中から読み取って考えよう.
Euclid の互除法:α,βがkに関して代数的:k(α,β)は単純拡大:
k(α)に共役な体:共役数:2次体:正規:正規(ガロア)拡大体:次数
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