ch 3. 群 ( group )

301. 群 の 概念


   ch.1 , ch.2 では整数、有理数の計算の規則を分析、整理して
 環,体の概念を導入した。
  ここでは乗法だけをとり出して 群の概念 を得る。


         1つの集合Gが群であるというのは、Gの2つの元a,bに対して
       Gの元cが定まり、これをab(これをabの積と呼ぶ)と表すとき、
       つぎの公理をみたすことをいう。

   I.積 ab の値は唯1つ定まる。

  II. 結合律 (ab)c=a(bc) が成り立つ。

 III. Gの1つの元 e があって、ea=a が成り立つ。

 IV. 任意の元 a に対して xa=e のような x が1つ存在する。
 IIIの e のことを単位元と呼び、IVの x のことを逆元と呼んで a-1 と表す。   したがって a-1a=e であるけれども aa-1=e であるかどうかは    公理の中には述べられていない。    このことを明確にするために a-1 を a の左逆元と呼ぶ。 IIIにおいても同じように ae=a なる関係式は公理中には述べられ ていないことに注意して e を左単位元という。     これについて先ず     左逆元は右逆元なること、すなわち a-1a=e ならば aa-1=e が成り立つ。        何となれば a-1aa-1=ea-1=a-1 の左から a-1 の逆元 (a-1)-1 をかけて         eaa-1=e        したがって aa-1=e   (*)       これで左逆元と右逆元の区別は不要となった。      群の計算でとくに注意しなければならないのは可換律 ab=ba が成り立つか否かということである。   可換律が成り立つ群のことをアーベル群(または可換群)という。

 例1.
    整数 0,±1,±2,・・・・・・ の集合Iの加法を仮りにここで議論し
  ているところの乗法と見なせば群(アーベル群)となる。
  このとき単位元に相当するものは 0 である。
  同じように一般の環 R の加法についても同様のことがいえる。

 例2.単位元だけの集合を考えれば1つの群(単位群)となる。

 例3.Gが2つの元e,aから成り、つぎのような積が定義され
       ているとすれば、Gは明らかに群を形成する。
       ee=e,ea=ae=a,aa=e
        この群Gをもう少し具体的な例で示せば
        (i) 1,-1 の乗法の群
               (ii) 例1.の I を法 2 で考えた加法の群
    などは抽象的に書けば上の群Gと同じ構造を持つ群である。
       後者は文章で表せば
                     偶数+偶数=偶数
                       偶数+奇数=奇数+偶数=奇数
                       奇数+奇数=偶数 
        と表すことができる。
 例4.1つの正三角形をそれ自身に重ねる方法はつぎの6通り     存在する。 (1) 初めの位置にそのままおくこと(これをeと表す)。 (2) 正三角形の重心を中心とする角およびの回転a,b (3) 中線に関する折り返しp,q,r これらの6つの運動について、    先ずaなる運動をして後にbなる運動をすることを積ab と定義すれば、積abは1つの群を形成する。その結果を下図 のように表に表したものを 群表 という。
 
この表からたとえば ap ≠ pa なるこ
とが分る。
また、表の内部の各行、各列には同じ元は
現われない。

この事実は一般につぎのように
証明される。すなわち

左欄が a に相当する行に同じ元 c
2度現われたとすれば
ap = aq ( = c ) , p ≠ q
なる関係が成立する。

しかるに ap = aq の左から a-1 を乗じて p = q が得られるから
これは矛盾である。
  上の事実をつぎのように定理として述べる

 定理1.

   群表の各行、各列は同じ元を2個以上含むことはない。
 また、
  群表の各行、各列は群の任意の元を1個ずつ含む。
   定理の後半はつぎのように確かめられる。          aの行に与えられた元cが含まれることは          ax = cなるxが存在することであるが、         a( a-1c )=cであるから x=a-1c がその解である。



301-1. つぎの表は4つの元からなる群の群表の一部分である。
      ( i) この表を完成せよ。
      (ii) この表の単位元はどれか。

 301-2. 1つの正方形をそれ自身の上へ重ねる方法の全体に
     ついて、例4.にならって群表を作れ。

 301-3. ab の逆元は b-1a-1 であることを示せ。

 301-4. 4つの元から成る群Gはアーベル群であることを示せ。
      eを単位元、G={ e,a,b,c}とおいて群表を作って考えよ。






302. 部分群


      群Gの元の個数gをGの位数という。g<∞のときGを有限群という。
      今、Gの元aについて冪amを通常のように
           a1=a , a2=a・a , a3=a・a・a , ・・・・・・
           a-2=(a-1)2 , a-3=( a-1 )3 , ・・・・・・
     のように定義する。またa0=eとおけば正または負の整数m,nに対して
                           aman=am+n
     が成立する。

       元aの冪の全体はGに含まれる1つの群を作る。
      これをaによって生成された群と呼び {a} とあらわす。
      もしG={a}ならばGはaを生成元にもつ巡回群という。
       一般に群Gの一部分Hがそれ自身群を作るときHは群Gの部分群 
        という。とくに部分群{a}の位数のことをaの位数という。

      群Gの位数と部分群Hの位数についてはつぎの関係がある。

 定理2.

  Gの部分群Hの位数は Gの位数の約数である。
    証明 G,Hの位数をそれぞれ g,h とする。今Hの元を         (1) s1,s2,・・・・・・,sh        とするとき、要素の集合         (2) as1,as2,・・・・・・,ash        のことをaの属するHの左副群(または左剰余類、左傍系) といってaHと表す。       このとき(2)の元がすべて異なることは          asi=asj ならば a-1 を左から乗じてsi=sj         となることから分る。         したがってすべての左副群は同数の元を含む。       もし b が aH の元ならば aH=bH である。       証明:b が aH の元すなわち b=as ならば bHの任意の元は bsi=assi ここに s,si はHの元でHは群であるから ssi はHに属する。        したがってbHの元 bsi はすべてaHに属する。        bHとaHは同数の元を含むから bH=aH である。 //       次に aH , bH が1つの元 c を共有するならば、 上に述べたことから aH = cH , bH = cH であるから aH = bH である。        したがって 2つの副群は共通な元を持たないか、または完全に一致する ことがわかった。       以上から G は h個ずつの元を含む副群に分解(類別)されること が分ったから、副群の個数をjとすれば g=jh すなわちhはgの約数であることが証明された。 //    上のj のことをHのGにおける指数といい (G:H) で表す。    元aの位数nは部分群{a} の位数であるから、 上の定理の特別の場合としてnもGの位数の約数である。    {a} の意味から n は a1, a2, a3, ・・・・・・の中で an が 初めて =e となるような自然数である。

 例.

      H1,H2がGの部分群ならばH1∩H2もGの部分群である。

        a , b ∈H1∩H2=H とすれば 
                   a,b∈H1ゆえに 積ab∈H1
   同じようにab∈H2だからab∈H1∩H2=H

       またa∈Hならばa∈ H1,したがってa-1∈H1 
       同じ理由でa-1∈H2であるからa-1∈H1∩H2=H 

      すなわちHの元を2つ乗じてもHの元であり、Hの元に対
      してその逆元がHの中にあるのであるが、Hが群であるための
      他の条件も明らかであるからHは1つの部分群を作る。//
次の用語の定義または意味を上の文章から読み取って答えてみよ。     G の位数:  生成された群H:  Hの位数はGの約数: 同型対応:     左副群:副群の個数j, g = jh :指数 :左剰余類: 1対1対応:


302-1. 左副群aH のことを左剰余類ともいう。
   a,b が同じ剰余類に属することをa≡b ( mod H )で表
      すことにすれば、この関係は同値律をみたすこと、および
   a≡b(mod H)ならば ca≡cb( mod H )なることを示せ。

 302-2.
      1つの群 G において 対応:a →a-11対1であることを示せ。
   またこの対応は一般には同型でないことを今まで挙げた適当な
      群の例によって示せ。

    (1つの群 G から G'への1対1の対応:a→a-1が同型対応
          であるというのはab=cなるときa'b'=c'なることをいう。
                       G'がGに同型であることをGG'と表す)








303. 対称群


      n個の文字を1つの順列から他の順列に並べ替える置換の全体(順列の
       総数)はn!個存在する。

      その全体の集合をSnと表し、Snの元(すなわち 置換)の積は
      2つの置換を続 けて施すことであると約束すればSnはn!位の群となる。
        この群をn次の対称群という。

      簡単のため n個の文字の代りに数字1, 2, 3, ・・・, nの置換を考え
      ることとし、1 , 2 , 32 , 3 , 1にかえる置換をと表す。
       また置換される数字だけに着目してと約束する。
      2つの置換の積の計算は
             
      の例にならって実行すればよい。
      積の順序は先ず左の置換を、次に右の置換を施すものとする。       置換の際不変な文字はのように省略することがある。      1つの置換によってr個の文字が      l1→l2→l3→ ・・・・・・ → lr→l1      のように循環するとき、これをr次の巡回置換といって、簡単に       (l1l2・・・・・・lr ) と表す。       すなわち      である。       とくに2次の巡回置換のことを互換という。       任意の巡回置換が互換の積となることは                なることから分る。( よく理解しておこう。)       次に任意の巡回置換Pにおいて1つの文字l1から始まり      l1→l2,l2→l3 , ・・・・・・       なる置き換えが含まれているとすればlr-1→l1の形の置換も含まれる。       何となれば もし→l1の形の置換が含まれなければ           l2,l3・・・・・・ はすべて異なる文字であるから、           異なる文字が無限に含まれることになる     からである。        l1 , l2 , ・・・・・・ 以外の文字から始まり、同じ操作により           m1→m2 , ・・・・・・ →ms→ m1       なる巡回置換が得られ、P が巡回置換の積として表されることが      分った。前に述べたことからこれらの巡回置換は互換の積である      から、任意の置換は互換の積として表されることが結論できた。       たとえば      互換の積としての表し方は1通りとは限らない。たとえば上の置換は                  とも書き表すこともできる。 しかし、互換の個数に全然法則がないわけではなく、つぎの定理が成立する。

 定理3.

  置換 P が1度偶数個の互換の積として表されれば、
 どのような方法で表しても偶数個である。
 奇数個の場合も同様である。
 証明:x1, x2, ・・・・・・, xn n個の変数 として次の多項式を考える。  F =(xi- xj) = (x1- x2)(x1- x3)(x1- x4)・・・・・・(x1- xn)           ・(x2- x3)(x2- x4)・・・・・・(x2- xn)              ・(x3- x4)・・・・・・(x3- xn) (*1) ・・・・・・ ・(xi- xi+1)・・(xi- xn)          ・・・・・・ ・(xn-1- xn) x の添数に互換(ij ),(i < j)を施せば F は -F となる。      何となれば Fの因数の中でx1とx2とを互いに交換すれば、第一の因子(x1 - x2) は符号が変り、その他の第1行の各因子と第2行の各因子とは互いにそ の位置を交換し、第3行以下の因子は1つも変らないからF は-F となる。   x1、 x2でなくとも、任意の2つのx、例えばxiとxjとを互いに交換し てもFは-F になることは見易い。 実際、F において変数x1,・・・,xnの順序を変えてxi,xjを第1、第2の位 置においたときに生ずる式をF'とすれば、F'=±F しかるにF'において第1、第2の変数であるxiとxjとを交換すれば、 上で述べたように、 F' は -F' になるから、F もやはり -F にならねばならない。 ( 以上の論証は高木貞治著 代数学講義 第5章 27節から引用 )    Fの因数で変数の添数に置換Pを施せば、上に述べたことから互 換の偶数個の積となるか奇数個の積になるかにしたがってFがF 自身、または-Fに移ることから、Pを2通りの互換の積に分解し たとき、一方が偶数個で他方が奇数個となることは起こりえない。   // 上の定理により置換Pを互換の偶数個の積となるか奇数個の積となるか   にしたがって偶置換または奇置換と名付けることができる。   n 次の対称群の偶置換の全体は1つの群を作る。これをn次の交代群   称してここではAnと表わす。


 問
 303-0. 301節の例4.1つの正三角形をそれ自身
     に重ねる6個の方法は、それぞれ3次の
     対称群の元に対応することを示せ。
 303-1. 3次の対称群 S3 の部分群をすべて求めよ。  306-1→
 303-2. 3次の交代群 A3 の元をすべて求めよ。
 303-3. 4次の交代群 A4 の元をすべて求めよ。
                               304節練習3,4→ 306-2→
 303-4.  次の値を計算せよ。
 303-5. 次のような置換の位数を求めよ。
             (abcdef)(ghij)(klm)
                                 306節 可解群.定理8→
 303-6.  A4の部分群:K={(1),(12)(34),(13)(24),(14)(23)} について、
          e=(1),p=(12)(34),q=(13)(24),r=(14)(23) 
         とおいて、Kの乗積表をつくれ。