304. 正規部分群・剰余群


 ガロアは正規部分群という用語は使っていないがそのideaを
既にもっていた。それが以後の「ガロア理論」に大きく貢献す
ることになったということである。 


       群Gの元aに G'の元a'が対応して積には積が対応するならばこの対
      応は準同型(homomorphic)であるという。
       ここで「積には積が対応する」とは「ab=cなるときにa'b'=c'である」
      という意味である。

       Gの元aに対応するa'の全体がG'になるとは限らないが、
    もしG'全体になるならばG'の上への準同型対応であるといい、
         一般の場合にはG'の中への準同型対応であるという。
         
       GからG'の上への準同型対応が存在するとき、G'はGに準同型であると
       いい、G〜G'と表わす。特にこの際対応が1対1(全単射)であれば
      同型対応となり、GG'と表わす。(isomorphic correspondence)

***
GからG’への準同型対応fがあるとき、    (1)Gのfによる像 Imf はG'の部分群をなし、Imf=G'ならば、fは全射である。      また、    (2)G'の単位元e'の原像(Kerf)について、Kerf=e ならば、fは単射である。   群Gの1つの元をaとし、x→a-1xaなる対応を考えれば、 これはGからG自身への同型対応を与える。       何とならば先ずこの対応が準同型であることは            x→a-1xa=x'       y→a-1ya=y' なるとき、xy→a-1xya=a-1x(aa-1)ya=(a-1xa)(a-1ya)=x'y' となることから分る。     またこの対応が1対1であることは           x'=y' ならば a-1xa=a-1ya から x=y であることから分る。      //   上の同型対応(x→a-1xa)をaによる内部自己同型(内部同型置換)という。 inner automorphism 次の用語(術語)の定義または意味を上の文章から読み取り、考えよう。     準同型:    積に積が対応する:   上への準同型対応:       中への準同型対応:内部自己同型(内部同型置換):準同型対応の記号:       同型対応の記号 : 単射:  全射:  全単射:

  例1.3次の対称群S3の(12)による内部自己同型の結果は下表の通りである。
        
      たとえば x=(13) に対応するx'は(12)-1(13)(12)=(23)である。
練習1:例1.のすべての元xについて、実際にx'を求めてみよ。 練習2:f を群 G から 群 G' への準同型対応とする。 H が G の部分群ならば f(H) も G'の部分群であることを         示せ。 ( H⊂G ⇒ f(H)⊂G' )    一般に同型対応においてGの部分群Hの像H'も部分群であるから、      Hの内部自己同型f:x→a-1xa,(a∈G) による像 H' = a-1Ha      もGの1つの部分群である。これを Hと共役な部分群 という。    たとえば上の例で、Hを 1,(13) の2つを元とするGの部分群とすれば、 その像 H'=a-1Ha (a=(12)∈G) は 1,(23) を元とするGの部分群である。      ゆえに、これら2つの部分群は共役である。      Gのある部分群Nの共役な部分群がすべてN自身と一致するとき、      NをGの 正規部分群( normal subgroup ) という。 (注) 取り敢えず不等号を借用して N < G と記すことにする。
    これは Gの任意のa に対して a-1Na=N すなわち aN=Na であることを意味している。正規部分群は特に重要である。

  例2.3次の対称群 S3 の 1,(123),(132) を元とする部分群
       すなわち3次の交代群A3は (S3の)正規部分群 である。
   練習3:自ら確かめよ。また、S4の交代群A4が正規部分群であることを示せ。 303-1,2,3→ , 306-1,2→ 練習4:f(G) = G' かつ f は全射とする。このとき H が G の        正規部分群ならば f(H) も G' の正規部分群であることを示せ。          ( H<G ⇒ f(H)<G' )      正規部分群の性質を調べるために、群の部分集合M1,M2の積を      次のように定義しておくのが便利である。        すなわち積 M1M2 とはM1 の元a,M2の元b の積 ab の     全体のことである。このような積のことを直積 という。 direct product      この定義によりa≠a',b≠b'のとき積abがa'b'に等しい場合、    M1M2の中には積abは一応2回以上現われることとなるのであるが、    その回数は問題にしないこととする。     たとえば M1 が (12) (13) からなる集合 {(12),(13)} を      また、  M2 が (12) (23) からなる集合 {(12),(23)} を表すとすれば、       M1M2 = {(12),(13)}{(12),(23)}     = {(12)(12),(13)(12),(12)(23),(13)(23)}    = {1,(132),(132),(123)}     = {1,(132),(123) }    今HがGの部分群であれば HH=H ・・・・・・(*) が成り立つ。        何となれば群の元の積はその群の中に含まれることから(*)式の        左辺は右辺に含まれ、また群の元は 1 とそれ自身の積として        表わされることから (*) の右辺 H は左辺に含まれるからである。      特にNが正規部分群であれば a,b∈G のとき        aN・bN=a(bN)N=(ab)NN=abN すなわち aN・bN=abN    が成り立つ。    これを副群aN,bNの積と考えたとき ,    Nを単位元とし、aNの逆元が a-1N となるような1つの群    が得られる。    これを GのNによる剰余群(または 商群,因子群)といってG/N    と表わす。residue class group( quotient group,factor group )     すなわち、        G/N ={ N , aN , bN , ・・・・・・ }; a ,b ,・・・ ∈ G   ここでは群の部分群であるところの剰余群の演算(群を元と         する演算 即ち 群の群)を定義していることに注意しよう。      G/Nの位数は副群aNの個数であるからNの指数(G:N)に等しい。   次の用語(術語)の定義または意味を上の文章の中から読み、考えよう。 共役な部分群: 正規部分群:< :M1M2: aN・bN = abN: (aN)-1=:剰余群(商群,因子群): G/Nの位数=aNの個数=Nの指数(G:N):

 例3.

  平面上の点(a,b)の全体Gを考え、2つの点の和を
      (a,b) + (c,d) = (a+c , b+d)
  によって定義する。これは複素数の場合と同様である。

 このとき(a,0)の形の要素の全体Nは部分群を作り、(x1,y1)
  の属する副群(x1,y1)+N の要素(x1+a,y1)は 
  y 座標がy1となるような点の全体、すなわち平面上に画いたときの
 x 軸に平行な直線上の点の全体と一致する。
     副群を(x1,y1)+Nと書き表わしたのは加法に関する群である
    からである。 
  2つの副群 (x1,y1)+N,(x2,y2)+N の和は (x1+x2,y1+y2)+N であり、
  これは y 座標が y1+y2となるような点の全体と一致する。

  以上から剰余群G/Nにおける演算はこの例の場合にはy座標を加え
  る演算と一致するから、(0,y)の形の元の全体をMとするとき、

  G/NとMは同型(G/NM)である。

      (注)以下、HがGの正規部分群であることを H<>H と記す。

 304-1.アーベル群の部分群はすべて正規部分群であることを示せ。

 304-2.指数 2 の部分群はすべて正規部分群であることを示せ。

 304-3.H1<G , H2<G ならば H1∩H2<G であることを示せ。

 304-4.H1 , H2 が G の部分群で、H2<G であれば H1∩H2<H1 である。
                                   305-9→.  306 定理.6→ 

 304-5.H<G ⇔ ∀g∈G,∀h∈H に対して g-1hg∈H 

         ( 記号 ∀ は「任意の,arbitrary ・・」の意味
       ついでに  記号 ∃ は「存在する,there exist ・・」の意味 )

 304-6.剰余類全体{ H , Ha , Hb , ・・・ }は演算 Ha・Hb = Hab に
   おいて群をなす。

 304-7.G/N がアーベル群であるための条件は 
      G の任意の交換子(a-1b-1ab の形の要素) が N に属することである。
                         306 定理.6 →  306 定理.9 →  306-5→

  304-8.
       (1) 実数の加法に関する群をGとするとき、θ→cosθ+isinθ は
      Gから複素数の乗法群の中への準同型対応であることを示せ。
      また、この対応で1に写像される実数θの全体を求めよ。

    (2) x が 0 でない複素数であるとき、次の対応はいずれも積に関
      して準同型対応であることを示せ。
         x→|x|  、 x→x2   、 x→1/x






305. 準同型定理
theorem of homomorphism


 正規部分群と本節の準同型定理に到達しただけでもガロアは歴史に
名を残すという人もいる。 定理の証明は石谷 茂、淡中 忠郎 両氏
の著書から抜粋( 記述、表現は所々改変、整理 )した。
 問.305-4も参考になる。比較検討しながらゆっくり学習しよう。




  定理4-1.(準同型定理)             ( 石谷 )

   fがGからG'への準同型写像であるとき、

    (I) f(a)=e'∈G'なるaの全体Nは正規部分群である。

  (II) G/NG' である。  

         ( e'はG'の単位元 、N は f の核といい N=Kerf と記す。)
                                            問.305-4 →
証明: (I) f(a)=e'∈G'なるaの全体 N は正規部分群である の証明 はじめに NがGの部分群であるを示す。       a,b∈Nとするとf(a)=e',f(b)=e' fはGからG'への準同型写像だから               f(ab)=f(a)・f(b)=e'・e'=e'   よって演算 ・ について閉じている。 a∈Nに対してf(a)=f(e・a)=f(e)・f(a) ∴ e'=f(e)・e' ∴ f(e)=e'             ゆえに e は N の単位元である。       a∈Nに対してf(a・a-1)=f(a)・f(a-1) ∴ e'=e'・f(a-1) ∴ f(a-1)=e'             ゆえに a-1∈N である。       以上で N は G の部分群であることがわかった。 //      つぎに NG であることを示す。 それには ∀n∈N ,∀g∈G →gng-1∈N       が成り立つことを示せばよい。すなわち           f(gng-1)=f(g)・f(n)・f(g-1)=f(g)・e'・f(g-1) =f(g)・f(g-1)=f(gg-1)=f(e)= e'    ∴ gng-1∈N // (II) G/NG' の証明    すなわち G/NからG'への同型写像が存在する を示す。  その同型写像はfをもとにして作る。 先ず, 1つの剰余類Naの元にfによって対応するG'の元がただ1つである      ことを示す。            ∀na∈Naとすると f(na) = f(n)・f(a) = e'・f(a) = f(a)     よってNaのすべての元naが1つの元f(a)に対応する。//      つぎに この対応が一意的である を示す。 それには Na=NbのときNa,Nbに対応するG'の元が等しい をいえばよい。         ∀n1b∈Nb とすると,n1b∈Na でもあるから n2a とも表わされる。            したがって n1b = n2a この式から n1b に対応する元は n2a に対応する元 f(a) に          等しいことがわかる。       よって対応Na→f(a)によって, G/NからG'への写像を定めることができる。  この写像を F で表す。(すなわち F:Na→f(a)とする。)      f は全射(surjection)であったから、Fも全射である      つぎに F は単射(injection)である を示す。 それには F(Na) = F(Nb) ⇒Na = Nb であることを示せばよい。         仮定から f(a) = f(b) ∴f(ba-1)=f(b)・f(a-1)=f(a)・f(a-1)=f(aa-1)=f(e)= e' ∴ ba-1∈N ∴ b∈Na したがって Na = Nb  // 最後に Fは準同型である を示す。         Na・Nb=Nab だから F(Na・Nb)=F(Nab)=f(ab)=f(a)・f(b)=F(Na)・F(Nb) よってFは準同型写像である。 //     以上により、 FはG/NからG'への同型写像である が明らかにされたから    G/NG' //

  定理4-2.(準同型定理)               ( 淡中 )

  (I)  G の正規部分群を N とすれば G〜G/N である。

  (II) fがGからG'への準同型写像であるとき、

         f(a)=e'∈G'なるaの全体Nは正規部分群であり、

         かつ G/NG' である。  
                                    問.305-4 →
証明:(I) は明らかであるから (II) だけについて証明する。 「(I) は明らかである」とはどういうことか。練習5→     (II) f(a) = e'なるaの全体Nが部分群であることは次の(公理)を示せばよい。

   (i) a ,b∈N⇒ab∈N
   (ii) a,b,c∈N⇒(ab)c=a(bc)
  (iii) e∈N  (eは単位元)
  (iv) a ∈N⇒a-1∈N 
(i)はf(a)=e',f(b)=e'⇒ f(ab)=e'なることであるが、     これはf(ab)=f(a)f(b)なる関係から明らかである。     (ii)はNの元のみならずGの任意の元に対して(ab)c=a(bc)      なることから分る。 (iii) 対応a→f(a)が準同型であることからf(ab) = f(a)f(b)           ∴f(e)=f(e2)=f(e)f(e) ∴f(e)=e' ∴ e∈N // (iv)を証明するにはf(a)=e'⇒ f(a-1)=e'を示せばよい。      f は準同型対応だから      f(a)f(a-1)=f(aa-1)=f(e)=e' ゆえに f(a-1)=f(a)-1      とくに f(a)=e' ならば目的の関係式 f(a-1)=e'      が得られる。 以上から N が部分群であることが分った。 // Nが正規部分群であることを示すには a-1Na=N すなわち      N の任意の元 b にたいして a-1ba がN の元になることをいえばよい。 これをいいかえれば             f(b)=e' ならば f(a-1ba)=e' となることであるが、             f(a-1ba)=f(a-1)f(b)f(a)=f(a-1)f(a)=f(a-1a)=f(e)=e' であるから N は正規部分群である。  // 剰余群 G/N の元 aN は N による副群であるが、これにG'の元      f(a)=a'を対応させれば、先ずこの対応は一意的である。   事実aN=a1Nであればab=a1b1 ( b,b1はN の元、したがってf(b)=f(b1)=e' )    であるからf(a)=f(ab)=f(a1b1)=f(a1)である。
対応aN→f(a)は準同型であることは明らかである。 この対応が同型であることをいうには 像f(a1),f(a2)が等しいとき     a1N=a2N なることを示せばよい。(単射) f(a1)=f(a2)ならばf(a2-1a1)=f(a2)-1f(a1)=e' であるから     a2-1a1はNの元であり、 したがってa2-1a1N=Nであるから           a1N=( a2a2-1a1 )N=a2(a2-1a1 )N=a2N となって証明が終る。  //              両氏の証明を読んで、どちらがより取り付きやすいと思うか?       徒に理解を焦るよりゆっくりと繰り返し読んで、とにかく取り       付きやすい一つの証明をつかむことである。       解析とは異なる代数的な考え方や感覚に頭を仕込んでいく(?) ことが大切であるように思う。 自分への戒めでもあるが・・・。

  定理5.

   群Gから群G'の上への準同型写像f が与えられたとき、
    Gの元でf による像がG'の正規部分群N'の元となる
   ようなものの全体 N  
   はGの正規部分群であり、かつ G/NG'/N' である。
    証明:Gの元aにG'/N'の元f(a)N'を対応させればこの対応        は準同型であり、このときG'/N'の単位元N'に対応するGの        元の全体がNであるから前定理によってG/NG'/N' が成り立つ。   //

 例5.2次の正則行列の全体Gは乗法について群をなす。

   そこでいま、正則行列 A に行列式 detA を対応させてみると、
   この対応
             f : A → detA  
        は 
      G から 0を除く実数全体R* への写像
      である。

      行列式では det(AB)=(detA)(detB)  が成り立つから
            f(AB)=f(A)F(B)
      となって、f は準同型写像である。

   しかも、これが全射であることは、0 でない任意の実数 a に
   対して、行列  を選び得ることから明らかである。

   この準同型写像 f の核( detA=1 となる行列の集合 )を H と
      すれば(すなわち detA=1 となる G の部分群を H とすれば)、
   
      G/H と R*  とは同型である。  //
次の用語(術語)の定義または意味を上の文章の中から読み取り、考えよう。 準同型写像:  準同型定理: 全射:  単射: fの核


 305-1.群Gから群G’への準同型写像fについて、つぎのことを証明せよ。

        (1)  Imf は G' の部分群である。

    (2)  Kerf<G 

 305-2.群Gから群G’への準同型写像fについて、つぎのことを示せ。

    (1)  f が全射 ⇔ Imf=G'

    (2)  Imf=e' であるとき、f が単射 ⇔ Kerf={e}

      (注)「証明せよ」と「示せ」は論証において同意である。

 305-3.群Gの任意の正規部分群をKとし、Gから剰余群G/Kへの写像 p を

         p ; x → Kx

         によって定義すれば、p は全射-準同型写像であることを示せ。

           (注) この準同型写像 p を G から G/K の上への 

                「 自然な準同型写像 」 という。

 305-4.準同型定理を証明せよ。

       準同型写像 f:G → G' において、

              K=Kerf とおき、G からG/K の上への

              自然な準同型写像をp とすれば、

       f=ψ・p をみたすような同型写像 ψ : G/K → Imf

              が存在する。       問.305-9の解へ戻る

     (注)本節の初めに戻り、定理4-1定理4-2 と比べてみよう。
 
 305-5.群Gの単位元を e とするとき、つぎの同型を示せ。

    (1)  G/G {e}     (2)  G/{e}  G

  305-6.KG であるための必要十分条件は、

    準同型写像 f:G → G' が存在して、Kerf=K である。


  305-7.実数の加法群 R の整数の加法群 Z による剰余群 R/Z は、

       剰余群 T = { e | θ ∈ R }  (1次元torus群) 

    と同型であることを示せ。


 305-8.群GからG'への準同型写像 f について、つぎのことを証明せよ。
                                                 (第1同型定理)

    (1)  H<G ならば、H' = f(H)<G'

        (2)  H'<G' ならば、H = f-1(H')<G

        (3)  (2)において、G/HG'/H' 

  305-9.群Gにおいて、HをGの部分群、K<G とするとき、

    つぎのことを証明せよ。(第2同型定理)

    (1) HK は G の部分群 かつ、H∩K<H である.

        (2)  HK/KH/(H∩K) .

  305-10.群Gにおいて、G>K>H , G>H  とするとき、つぎのことを

     を証明せよ。(第3同型定理) 

         G/H>k/H 、(G/H)/(K/H)G/K