群Gの元aに G'の元a'が対応して積には積が対応するならばこの対
応は準同型(homomorphic)であるという。
ここで「積には積が対応する」とは「ab=cなるときにa'b'=c'である」
という意味である。
Gの元aに対応するa'の全体がG'になるとは限らないが、
もしG'全体になるならばG'の上への準同型対応であるといい、
一般の場合にはG'の中への準同型対応であるという。
GからG'の上への準同型対応が存在するとき、G'はGに準同型であると
いい、G〜G'と表わす。特にこの際対応が1対1(全単射)であれば
同型対応となり、G G'と表わす。(isomorphic correspondence)
***
GからG’への準同型対応fがあるとき、
(1)Gのfによる像 Imf はG'の部分群をなし、Imf=G'ならば、fは全射である。
また、
(2)G'の単位元e'の原像(Kerf)について、Kerf=e ならば、fは単射である。
群Gの1つの元をaとし、x→a-1xaなる対応を考えれば、
これはGからG自身への同型対応を与える。
何とならば先ずこの対応が準同型であることは
x→a-1xa=x'
y→a-1ya=y'
なるとき、xy→a-1xya=a-1x(aa-1)ya=(a-1xa)(a-1ya)=x'y'
となることから分る。
またこの対応が1対1であることは
x'=y' ならば a-1xa=a-1ya から x=y
であることから分る。 //
上の同型対応(x→a-1xa)をaによる内部自己同型(内部同型置換)という。
inner automorphism
次の用語(術語)の定義または意味を上の文章から読み取り、考えよう。
準同型: 積に積が対応する: 上への準同型対応:
中への準同型対応:内部自己同型(内部同型置換):準同型対応の記号:
同型対応の記号 : 単射: 全射: 全単射:
例1.3次の対称群S3の(12)による内部自己同型の結果は下表の通りである。
たとえば x=(13) に対応するx'は(12)-1(13)(12)=(23)である。
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練習1:例1.のすべての元xについて、実際にx'を求めてみよ。
練習2:f を群 G から 群 G' への準同型対応とする。
H が G の部分群ならば f(H) も G'の部分群であることを
示せ。 ( H⊂G ⇒ f(H)⊂G' )
一般に同型対応においてGの部分群Hの像H'も部分群であるから、
Hの内部自己同型f:x→a-1xa,(a∈G) による像 H' = a-1Ha
もGの1つの部分群である。これを Hと共役な部分群 という。
たとえば上の例で、Hを 1,(13) の2つを元とするGの部分群とすれば、
その像 H'=a-1Ha (a=(12)∈G) は 1,(23) を元とするGの部分群である。
ゆえに、これら2つの部分群は共役である。
Gのある部分群Nの共役な部分群がすべてN自身と一致するとき、
NをGの 正規部分群( normal subgroup ) という。
(注) 取り敢えず不等号を借用して N < G と記すことにする。
これは Gの任意のa に対して a-1Na=N すなわち aN=Na
であることを意味している。正規部分群は特に重要である。
例2.3次の対称群 S3 の 1,(123),(132) を元とする部分群
すなわち3次の交代群A3は (S3の)正規部分群 である。
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練習3:自ら確かめよ。また、S4の交代群A4が正規部分群であることを示せ。
303-1,2,3→ , 306-1,2→
練習4:f(G) = G' かつ f は全射とする。このとき H が G の
正規部分群ならば f(H) も G' の正規部分群であることを示せ。
( H<G ⇒ f(H)<G' )
正規部分群の性質を調べるために、群の部分集合M1,M2の積を
次のように定義しておくのが便利である。
すなわち積 M1M2 とはM1 の元a,M2の元b の積 ab の
全体のことである。このような積のことを直積 という。
direct product
この定義によりa≠a',b≠b'のとき積abがa'b'に等しい場合、
M1M2の中には積abは一応2回以上現われることとなるのであるが、
その回数は問題にしないこととする。
たとえば M1 が (12) (13) からなる集合 {(12),(13)} を
また、 M2 が (12) (23) からなる集合 {(12),(23)} を表すとすれば、
M1M2 = {(12),(13)}{(12),(23)}
= {(12)(12),(13)(12),(12)(23),(13)(23)}
= {1,(132),(132),(123)}
= {1,(132),(123) }
今HがGの部分群であれば HH=H ・・・・・・(*) が成り立つ。
何となれば群の元の積はその群の中に含まれることから(*)式の
左辺は右辺に含まれ、また群の元は 1 とそれ自身の積として
表わされることから (*) の右辺 H は左辺に含まれるからである。
特にNが正規部分群であれば a,b∈G のとき
aN・bN=a(bN)N=(ab)NN=abN すなわち aN・bN=abN
が成り立つ。
これを副群aN,bNの積と考えたとき ,
Nを単位元とし、aNの逆元が a-1N となるような1つの群
が得られる。
これを GのNによる剰余群(または 商群,因子群)といってG/N
と表わす。residue class group( quotient group,factor group )
すなわち、
G/N ={ N , aN , bN , ・・・・・・ }; a ,b ,・・・ ∈ G
ここでは群の部分群であるところの剰余群の演算(群を元と
する演算 即ち 群の群)を定義していることに注意しよう。
G/Nの位数は副群aNの個数であるからNの指数(G:N)に等しい。
次の用語(術語)の定義または意味を上の文章の中から読み、考えよう。
共役な部分群: 正規部分群:< :M1M2: aN・bN = abN:
(aN)-1=:剰余群(商群,因子群): G/Nの位数=aNの個数=Nの指数(G:N):
例3.
平面上の点(a,b)の全体Gを考え、2つの点の和を
(a,b) + (c,d) = (a+c , b+d)
によって定義する。これは複素数の場合と同様である。
このとき(a,0)の形の要素の全体Nは部分群を作り、(x1,y1)
の属する副群(x1,y1)+N の要素(x1+a,y1)は
y 座標がy1となるような点の全体、すなわち平面上に画いたときの
x 軸に平行な直線上の点の全体と一致する。
副群を(x1,y1)+Nと書き表わしたのは加法に関する群である
からである。
2つの副群 (x1,y1)+N,(x2,y2)+N の和は (x1+x2,y1+y2)+N であり、
これは y 座標が y1+y2となるような点の全体と一致する。
以上から剰余群G/Nにおける演算はこの例の場合にはy座標を加え
る演算と一致するから、(0,y)の形の元の全体をMとするとき、
G/NとMは同型(G/N M)である。
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(注)以下、HがGの正規部分群であることを H<>H と記す。
304-1.アーベル群の部分群はすべて正規部分群であることを示せ。
304-2.指数 2 の部分群はすべて正規部分群であることを示せ。
304-3.H1<G , H2<G ならば H1∩H2<G であることを示せ。
304-4.H1 , H2 が G の部分群で、H2<G であれば H1∩H2<H1 である。
305-9→. 306 定理.6→
304-5.H<G ⇔ ∀g∈G,∀h∈H に対して g-1hg∈H
( 記号 ∀ は「任意の,arbitrary ・・」の意味
ついでに 記号 ∃ は「存在する,there exist ・・」の意味 )
304-6.剰余類全体{ H , Ha , Hb , ・・・ }は演算 Ha・Hb = Hab に
おいて群をなす。
304-7.G/N がアーベル群であるための条件は
G の任意の交換子(a-1b-1ab の形の要素) が N に属することである。
306 定理.6 → 306 定理.9 → 306-5→
304-8.
(1) 実数の加法に関する群をGとするとき、θ→cosθ+isinθ は
Gから複素数の乗法群の中への準同型対応であることを示せ。
また、この対応で1に写像される実数θの全体を求めよ。
(2) x が 0 でない複素数であるとき、次の対応はいずれも積に関
して準同型対応であることを示せ。
x→|x| 、 x→x2 、 x→1/x
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