306. 可解群
solvable group


   3次方程式、4次方程式を4則(加減乗除)と根号に
  よって解くことについては「付録」で述べる。
    同じような問題を5次以上の高次の方程式で論ずるには、
  群の考え方、とくに「群の可解性」が重要となる。
    本節はそのための準備である。


       群Gの部分群の列:

          G=G0⊃G1⊃G2⊃・・・・・・⊃Gr=e   

      があって、 e は単位群(単位元のみからなる群)で、Gi+1がGiの
      正規部分群すなわち、

        G=G0>G1>G2>・・・・・・>Gr=e   ・・・(*)

       であるとき、(*)のことをGの正規列(正規鎖)という。 

        ここにGiはGi-1の正規部分群( a∈Gi-1⇒ a-1Gia=Gi )
           であるがGの正規部分群である必要はない。

      とくに、 すべての剰余群(商群、因子群):

                Gi/Gi+1   (i=0,1,2,・・・・・・,r-1)
 
      がアーベル群であるような正規列が1つでもあれば
       Gは 可解群(solvable group) であるという。

  定理6.

  Gが可解群であれば任意の部分群Hも可解群である。
                         定理.9→ 主張するところは簡潔であるが証明はややむつかしい。       面倒がらずに問304-4.304-7 に何度も引き返して考えよう。     証明:Gが可解群であるから正規列を適当にえらんで         G=G0>G1>G2>・・・・・・>Gr=e       においてGi/Gi+1がアーベル群であるようにできる。    先ず、 Hi=H∩Gi とおけば Hi∩Gi+1=( H∩Gi )∩Gi+1=H∩Gi+1=Hi+1 であるから、 前々節 問304-4の G, H1, H2, H2<G, H1∩H2<H1 の代りにそれぞれ Gi, Hi, Gi+1, Gi+1<Gi, Hi∩Gi+1=Hi+1<Hi を対応させることにより H i+1< Hi であることが分る。
定理6の図

          したがって Hの1つの正規列

          H0=H>H1>H2>・・・・・・>Hr=e 

         が成り立つ。
つぎに、Hi/Hi+1がアーベル群であることを示すには前々節問304-7により Hiの元の交換子 a-1b-1ab が Hi+1 に属することを示せばよい。  a,b∈HiでHiは部分群であるから勿論 a-1b-1ab ∈Hiである。    一方 a,b∈Gi であり、Gi/Gi+1 がアーベル群であることから 前々節 問304-7により a-1b-1ab∈Gi+1           したがって   a-1b-1ab∈Hi∩Gi+1=Hi+1   //
定理7.は一時 masking する。必要になれば復元する。   4次方程式までの代数方程式が根号で解くことができる理由は、      ガロアの方程式論の立場から見れば次の定理にもとずく。

  定理8

  n次の対称群Snは n ≤ 4 なるとき可解群である。
対称群.交代群の総合的な復習→      証明: ・S2の場合は簡単に S2>e (単位群)で目的が達せられる。   306-1→        ・S3の可解性は正規列:S3>A3>e (単位群)で示される。      306-1→ ・S4 の可解性を示すには実際に適当な正規列を作ればよい。        次の部分群の列が実際に条件に適することを示せばよい。       306-2→             S4>A4>K>L>e (単位群)        ここに A4は4次の交代群、   303-3→            K={1, (12)(34), (13)(24), (14)(23)} L={1, (12)(34)} 共にアーベル群である。        (すべての剰余群がアーベル群であるであることは 演習として残して置く。)

 定理9. 

 n次の対称群Snは n ≥ 5 なるとき可解群ではない。
証明: 仮にSnが可解群であれば定理.6によりその部分群である交代群 An も可解群である。したがって、      剰余群(因子群)がすべてアーベル群であるような正規列           An>B>・・・・・・ が存在する。     Anは偶置換の全体の作る群であるからその元は(ab)(cd)     の形の置換の若干個の積である。更にいえば、     a,b,c,d がすべて異なる文字であれば(ab)(cd)=(adc)(adb)   また、たとえば a=c ならば  (ab)(cd)=(ab)(ad)=(abd) となるから An の(任意の)元は (abc)の形の要素の積である。     n≥5 であるから a,b,c と異なる文字x,yが存在する。     しかるに (abc)=(xab)(byc)(xab)-1(byc)-1 は交換子であるから An/B がアーベル群であることにより (abc)∈B                      (306-7→) (304-7→)     以上からAnの元はすべてBの元の積であることが分り An⊂B . 一方An⊃B であるから An=B であり、 Anが可解群であることから矛盾を生ずることが結論された。// ( An>B かつ An=B という矛盾!! ) 次の用語の意味を上の文章の中から読み取って考えてみよ。 正規列(正規鎖): 可解群:交換子 a-1b-1ab:


  306-1. S2 , S3が可解群であることを示せ。     定理8→
                                     304例2,練習3.→

  306-2. S4が可解群であることを示せ。        定理8→

  306-3. 12次の巡回群の正規列をすべて求めよ。

  306-4. ±1 , ±i , ±j , ±k の8つの元からなる群Gは
         i,j,k が次の関係をみたすとき、可解群であることを示せ。

     i2=j2=k2=-1, ij=k, ji=-k, jk=i, kj=-i, ki=j, ik=-j

  306-5. 群 G の交換子 aba-1b-1 の全体から生成された群を G'
          と表わし、Gの交換子群という。
          G/N がアーベル群ならば N⊃G'なることを示せ。
                                                304-7→

  306-6. S3 の交換子群を求めよ。

  306-7. 定理9の証明中の(abc)=(xab)(byc)(xab)-1(byc)-1を示せ。
                                                定理9.→