1. 温度ひび割れ
1.1 概要
コンクリートは打設後、セメントの水和作用に伴う発熱によってコンクリート温度が上昇し、その値は数日で最大となり、その後放熱によって除々に外気温程度まで降下する。この過程において、①コンクリート表面と内部との温度差による拘束(内部拘束)、②コンクリートが温度降下する際に地盤や既設コンクリートによって受ける拘束(外部拘束)などにより部材には温度応力が発生する。この時の応力がコンクリートの引張強度より大きくなるとひび割れが発生する。①は材齢の初期に発生し、ひび割れはごく表面付近のかぶりの範囲か、かぶりをいくぶん超える範囲に収まるのが一般的であるが、時間の経過にともなってコンクリート内部の温度が外部の温度に近くなると発生した時点の幅より小さくなる傾向がある。②はある程度時間が経過した後に発生し、断面を貫通する場合が多い。このひび割れの特徴は、発生した時点より内部の温度が下がり、全体温度が均一になるにしたがってひび割れ幅は大きくなる。これらの温度ひび割れは部材が大きいほど、外気温が高いほど顕著に現れる。
コンクリート標準示方書では、広がりのあるスラブの場合は厚さ80~100cm以上、下端が拘束された壁の場合は厚さ50cm以上のコンクリートをマスコンクリートと定義し、温度ひび割れが生じやすいとしているが、薄い部材であっても温度変化の大きい場合や単位セメント量が多い場合には、拘束条件によってはひび割れが生じることがある。
1.2 部材厚と温度の関係
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設計条件 |
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セメント量:300kg/m3 |
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断熱温度上昇式:Q(t)=46.0{1-EXP(-1.104t)} |
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打込み温度:20℃ |
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外気温:20℃ |
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熱伝達率:14W/m2・h・℃ |
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図1-1 コンクリート版の厚さと温度上昇の関係 |
出展:「マスコンクリートのひび割れ制御指針」1,986 日本コンクリート工学協会 |
部材が厚くなるほど内部中心温度は高くなる。打込み温度が20℃で部材厚がH=3.5mの場合は図1-1で65.5℃、打込み後45.5℃温度上昇したことになる。断熱温度(46.0℃)に対する比率(以降、断熱比率)は99%で、ほぼ断熱状態にある。H=3.0mでも64.5℃で97%の断熱比率である。リフト割りで上昇温度を抑える場合はリフト高を相当低くする必要がある。部材厚がH=1.0mの場合でも断熱比率は65%程度あり温度上昇量としては決して少なくない。
1.3 内部拘束ひび割れ
コンクリート温度の上昇過程において部材表面温度は大気への放熱により内部温度に比べ低く、内外に温度差が生じる。また、養生材の撤去が早い場合も同様で部材表面が急激に温度低下して温度差が大きくなる。この温度差により部材表面には引張応力が発生し、温度差が大きいとひび割れが発生する。
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図1-2 イメージ図 |
図1-3 内部拘束応力図 |
内部拘束による応力度は、時間経過にともない部材表面は引張応力から圧縮応力へ、部材中心は圧縮応力から引張応力へと変化する。図1.4はあるスラブの温度履歴図である。この履歴図を用いて変化する応力を説明する。
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図1-4 スラブの温度履歴 |
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図1-5の赤線は温度上昇時と下降時の部材内におけるひずみ分布である。温度上昇時は打込み後を基準とした内部中心ひずみに対し表面ひずみは小さく部材内に相対ひずみ差が生じる。表面は内部膨張につられて引っ張られ、逆に内部中心は表面膨張量が少ないために圧縮されることになる。一方、温度降下時は内部中心ひずみ①は急激に減少し、表面ひずみ②の変化は緩やかである。一般に温度降下時のひずみ変化は図中の①>②であるため、⊿t時間では徐々に内部中心には引張応力が、表面には圧縮応力が発生する。やがて、温度上昇時に生じていた応力度が逆転すると、表面には圧縮応力度が、内部中心には引張応力度が発生する。内部拘束ひび割れが時間経過とともに縮小していく現象はこの応力度の変化によるものである。
温度上昇時は発生したひずみと降下時に発生したひずみが同じとした時、ひずみ量はキャンセルされゼロになる。弾性力学では応力度はひずみ量に弾性係数を乗じて算出され、ひずみ量がゼロであれば応力度の発生はない。しかし、温度応力の場合は内部に圧縮応力度が、表面に引張応力度が発生する。弾性係数は積算温度と強い相関関係にあり積算温度が大きくなるほど増加する。弾性係数は、若材齢の温度上昇時は小さく時間経過とともに大きくなる。したがって、温度上昇時と降下時のひずみが同じであっても部材内には応力度が発生していることになる。
時刻tの温度応力度は⊿t時間に生じたひずみにその時の弾性係数を乗じた応力度の重ね合わせにより算出される。
一般に、内部拘束ひび割れはセメント量が多く部材厚が厚い場合に発生しやすい。発生時期は内部コンクリート温度がピークアウトする頃や養生材を撤去した時点で発生することが多い。 |
図1-5 ひずみ分布図 |
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1.4 外部拘束ひび割れ
外部拘束によるひび割れは、コンクリートの収縮が外部拘束された時に発生するものでフーチング(拘束体)上の竪壁(非拘束体)などのように拘束体が存在する場合に発生する。そのイメージを図1-6に示す。
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図1-6 イメージ図 |
外部拘束によるひび割れは以下のメカニズムで発生する。
Step1:施工直後(時刻 t = 0) |
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拘束体に打ち継がれた直後、非拘束体の温度収縮や乾燥収縮ひずみは開始前で、接合面での収縮差はまだ始まっていない。
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時刻 t = 0
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Step2:時刻 t > 0 |
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時刻t>0 で非拘束体の温度収縮や乾燥収縮は進行する。拘束体の温度は外気温程度であり乾燥収縮は既に進行している。ここで、拘束体の接合面は変形を拘束しないとすると、非拘束体の収縮(⊿L)は自由変形してひび割れることはない。
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時刻 t > 0 拘束なし |
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しかし、実際には拘束体からの鉄筋や付着などから自由変形は許されない。したがって、非拘束体は拘束を受けることになる。
釣り合い条件を満足させるために非拘束体には⊿Lを0にする引張力Tが作用していることになる。この引張力に相当するひずみがコンクリートの伸び能力を超えた時に初めて新コンクリートがひび割れることになる。引張力Tはクリープ*1の影響を受け、弾性解析に比べて低減された値となる。
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時刻 t > 0 拘束あり |
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図1-7 ステップ図 |
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外部拘束応力度は拘束体の剛性に影響され、砂地盤上のフーチングのように拘束度が弱い場合は大きなものにはならない。拘束度は、拘束体と非拘束体の剛性比に影響される。また、構造体の幅と高さの比L/Hにも大きく影響されL/Hが大きいほどひび割れが発生しやすい。一般にひび割れは1H~2Hの間隔で発生する。
*1クリープ:コンクリートの物性のひとつで塑性的な変形能力のことをいう。一般には見掛け上の弾性係数の低減として評価され内部応力が緩和する。もし、コンクリートにクリープがなければひび割れが数多く発生することになる。クリープはひび割れにとって好ましい物性である。
1.5 ひび割れ指数
温度応力がコンクリートの引張強度より小さければひび割れは発生しない。コンクリート標準示方書では、次式を満足すれば一般にひび割れ照査に合格したとされている。
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ここで、 |
Icr(t): |
ひび割れ指数 I(t)=ft(t)/σ(t) |
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ft(t): |
材齢t日におけるコンクリート引張強度 |
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σt(t): |
材齢t日におけるコンクリート最大主引張応力度 |
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γcr: |
ひび割れ発生確率に関する安全係数で、一般に1.0~1.8として良い。 |
一般的な配筋の構造物における標準的なγcrの参考値を表1-1のように示している。
表1-1 ひび割れ指数の評価 |
コンクリートの温度ひび割れ評価 |
ひび割れ指数 |
(1) ひび割れを防止したい場合 |
1.75以上 |
(2) ひび割れ発生をできるだけ制限したい場合 |
1.45以上 |
(3) ひび割れの発生を許容するが、ひび割れ幅が過大とならないように制限したい場合 |
1.00以上 |
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1.6 ひび割れ制御対策
温度ひび割れは部材が大きいほど、外気温が高いほど顕著に現れる。温度ひび割れ防止の基本は以下の通り。
① |
温度上昇量を小さくする。
温度上昇は単位セメント量に大きく関わるため、できる限り使用セメント量を少なくする。その方策として最大骨材寸法を大きく、スランプを小さく、あるいはAE減水剤や高性能AE減水剤を用いるなど配合設計上の工夫が必要である。
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② |
温度降下速度を緩やかにする。
温度降下を緩やかにするには保温養生が基本である。緩やかにコンクリート温度を外気温に近づけることが大切である。拘束応力の発生に先行してコンクリート強度を発現させることがよく、養生期間の延長も効果的な方策のひとつである。養生材撤去はコンクリートの表面温度が外気温相当になった時が理想的である。
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温度制御技術を以下に示す。
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図1-8 ひび割れ制御技術 |
1.6.1 材料・配合
マスコンクリートではできるだけ発生する水和熱が少ないセメントを用いるのが望ましい。図1-9に各種セメントの単位セメント量が300kg/m3で打込み温度が10℃の場合の断熱温度特性図を示す。
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図1-9 各種セメントの断熱温度特性図 |
低発熱セメントには中庸熱ポルトランドセメントや低熱ポルトランドセメントがある。また、上昇温度を抑制する方策として単位セメント量を低減する方法もある。コンクリートの発熱量はセメント量に比例して多くなり、一般には単位セメント量10kg/m3に対して1℃程度上昇するといわれている。単位セメントの低減方法には粗骨材の最大寸法を大きくする。あるいは高性能減水剤、流動化剤などを使用して単位水量を低減し単位セメント量を減じる方法もある。その他に、構造物のひび割れ抑制に対しては膨張材や収縮低減剤、繊維補強コンクリートなどの使用がある。
1.6.2 施工
マスコンクリートの施工上の基本は、①打ち込み温度を低減し、②温度上昇量の抑制と、③緩やかに温度降下させることにある。その対策として、①はプレクーリング、②はパイプクーリングやリフト割り、ブロック割りの縮小化、③は保温養生などがある。
プレクーリングはコンクリート製造の際にあらかじめ材料を冷却し練り上がり温度を低くする方法である。コンクリートの打込み温度を低くすることでコンクリート温度を低減させ部材の内外温度差や最高温度を低くし内部拘束応力や外部拘束応力を小さくすることができる。材料別による冷却効果は、骨材を-2℃、水を-4℃、セメントを-8℃変化させると練り上がり温度はそれぞれ-1℃低減することができる。コストパフォーマンスは-5℃程度といわれている。打込み時のコンクリート温度は運搬距離や運搬方法、気象条件により変化し、その程度は1時間につきコンクリート温度と周囲の気温との差の15%程度である。
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T2=T1±0.15(T1-T0)・t
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ここで、 |
T0: |
周囲の気温(℃) |
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T1: |
練り混ぜ時のコンクリート温度(℃) |
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T2: |
打込み終了時のコンクリート温度(℃) |
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t: |
練り混ぜから打ち込み終了までの時間(h) |
練り混ぜ時のコンクリート温度は、これらの条件を考慮して設定する必要がある。
リフト割り(ブロック割り)は打ち込み容積を少なくして上昇温度を抑制する方法である。打ち込まれたコンクリートの上昇温度はその容積により変化する。その容積が大きいほど最高温度は高くなるが、最少部材厚が3.0m近くになると内部中心温度は断熱温度近くまで上昇する。薄い部材の場合は薄い断面方向の放熱が大きいためにリフト割りを変化させても内部の最高温度の変化は小さい。また、リフト高を低くして上昇温度を抑えても外部拘束応力が大きくなり、リフト高の制限は必ずしも有利となりえない。温度に関するリフト割りは総合的に判断する必要がある。
保温養生は、内外温度差を少なくするとともに温度降下速度を緩やかにする効果がある。コンクリートは打設直後の比較的早い時期から水和反応により蓄熱される。コンクリート表面は外気に接しているために放熱が大きく部材内部と温度差ができ内部拘束によるひび割れが発生しやすい。これを防止するには保温性のよい型枠を用い放熱を極力抑制することが望ましく放熱性の高い鋼製型枠は用いない方がよい。保温性の高い型枠を用いたときには存置期間を長くするのがよくコンクリート温度が高い時期に脱枠すると表面温度が急速に低下してひび割れが発生することがある。「寒中コンクリート施工指針・同解説」日本建築学会ではACIの「寒中コンクリート」抄訳として表1-2の値を紹介している。しかし、温度ひずみは内外拘束による累積ひずみであるために同表は危険な場合もある。保温養生の継続期間は温度応力解析により設定することが望ましい。また、脱枠後の養生は直接外気(風)に当たらないように湿潤状態を保ちながら緩やかに外気温に近づけるのが基本である。コンクリート温度と外気温の状況により脱枠後の急冷を防止するために取り外し後もシート等で保温を継続するのがよい。
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表1-2 養生打ち切り後最初の24時間以内の温度降下の許容最大値 |
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断面寸法の最小値(mm) |
<300 |
300~900 |
900~1800 |
>1800 |
28℃ |
22℃ |
17℃ |
11℃ |
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1.6.3 設計
マスコンクリートで材料や施工で対策を講じてもひび割れを制御することが難しい場合がある。その場合にはひび割れ誘発目地の設置やひび割れ抑制鉄筋を配置してひび割れ幅を制御する方法などが考えられる。
ひび割れ誘発目地は設置箇所にひび割れを集中させ他の部分にひび割れを発生させない方法である。誘発目地は温度応力によるひび割れだけでなく乾燥収縮によるひび割れにも同様な効果がある。一般にひび割れはコンクリート部材高(H)の1H~2Hの間隔に入るために、誘発目地も同程度の間隔に配置されることが多い。その断面欠損率も30~50%程度がよいとされている。水密を要する構造物の誘発目地には止水版を設置して止水対策を施しておくのが望ましい。
ひび割れ制御鉄筋はひび割れを分散させ有害なひび割れ幅とならないように制御する方法でマスコンクリートのひび割れ対策として一般に採用されているものである。鉄筋比で0.6%程度を配置することで多くの場合はひび割れ幅を0.2mm以内に制御することができる。
ひび割れ誘発目地 |
樹脂型枠
文献紹介 |
膨張剤 |
保温湿潤養生マット |
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繊維補強コンクリート |
ガラス繊維補強材 |
高性能AE減水剤 |
流動化剤 |
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初期収縮低減剤 |
低熱セメント |
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