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 OnePoint講座


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コンクリートひび割れ辞典「順引き」



 コンクリートひび割れ辞典:「連載にあたって」

  コンクリートは、耐久的で低廉であるが引張強度が小さい材料である。物性の一つである乾燥収縮量だけでも400~1000μある。一方、コンクリートの伸び能力は100μ程度しかない。一般に、コンクリートからひび割れ(クラック)を避けることは難しい。  

ひび割れは一つの原因だけでなく複合された原因で発生することもある。ひび割れは構造物の悲痛な叫びである。なかには脆性的破壊を予兆させるものもある。構造物をいとおしむように、視る(みる)、診る(みる)、看る(みる)ことが大切で、的確な原因把握があってはじめて適切な補修・補強がなされる。ここで連載する「コンクリートOne Point講座」では手始めとしてひび割れを取り上げた。時間を要するが、「順引き辞典」として取りまとめる予定である。できれば、ひび割れを目視しただけでその原因が特定できる「逆引き辞典」も作成したいと考えている。

この講座は施工に携わる人だけでなく、「コンクリート診断士」や「コンクリート構造診断士」を目指す諸氏にも活用していただければ幸いである。



【目   次】
1.温度ひび割れ 
2.プラスチックひび割れ 
3.沈降ひび割れ 
4.打重ねの不適によるひび割れ(コールドジョイント) 
5.打継ぎの不適によるひび割れ 
6.初期凍害ひび割れ 
7.凍害ひび割れ 
8.乾燥収縮ひび割れ 
 


【Keyword】
打重ね [4]
打継ぎ [5]
温度ひび割れ [1.1] [D01] [Q01] [D09] [D10]
温度と部材厚の関係 [1.2]
温度ひび割れ制御対策 [1.6]
外部拘束ひび割れ [1.4] [8]
寒中コンクリート [6]
乾燥収縮ひび割れ [8]
凝結時間 [4]
許容打重ね時間 [4]
グリーンカット [5] [Q14]
コールドジョイント [4]
再振動 [4] [Q05]
フレッシュコンクリートの水分蒸発量 [2.2]
沈降ひび割れ [3] [D02] [D07]
凍害ひび割れ [6] [7] [D11] [D12] [Q24] [Q25]
内部拘束ひび割れ [1.3] [D01] [Q01] [8]
パイプクーリング [1.6] [Q07]
ひび割れ指数 [1.5]
ひび割れ誘発目地 [1.6]
ひび割れ制御鉄筋 [1.6]
プレクーリング [1.6]
プラスチックひび割れ [2]
プロクター貫入抵抗値 [4]
保温養生 [1.6] [Q01]
マスコンクリート [1.1] [D01]



1. 温度ひび割れ


1.1 概要

コンクリートは打設後、セメントの水和作用に伴う発熱によってコンクリート温度が上昇し、その値は数日で最大となり、その後放熱によって除々に外気温程度まで降下する。この過程において、①コンクリート表面と内部との温度差による拘束(内部拘束)、②コンクリートが温度降下する際に地盤や既設コンクリートによって受ける拘束(外部拘束)などにより部材には温度応力が発生する。この時の応力がコンクリートの引張強度より大きくなるとひび割れが発生する。①は材齢の初期に発生し、ひび割れはごく表面付近のかぶりの範囲か、かぶりをいくぶん超える範囲に収まるのが一般的であるが、時間の経過にともなってコンクリート内部の温度が外部の温度に近くなると発生した時点の幅より小さくなる傾向がある。②はある程度時間が経過した後に発生し、断面を貫通する場合が多い。このひび割れの特徴は、発生した時点より内部の温度が下がり、全体温度が均一になるにしたがってひび割れ幅は大きくなる。これらの温度ひび割れは部材が大きいほど、外気温が高いほど顕著に現れる。

コンクリート標準示方書では、広がりのあるスラブの場合は厚さ80~100cm以上、下端が拘束された壁の場合は厚さ50cm以上のコンクリートをマスコンクリートと定義し、温度ひび割れが生じやすいとしているが、薄い部材であっても温度変化の大きい場合や単位セメント量が多い場合には、拘束条件によってはひび割れが生じることがある。



1.2 部材厚と温度の関係

 
 
設計条件
セメント量:300kg/m3
断熱温度上昇式:Q(t)=46.0{1-EXP(-1.104t)}
打込み温度:20℃
外気温:20℃
熱伝達率:14W/m2・h・℃

 
図1-1 コンクリート版の厚さと温度上昇の関係
出展:「マスコンクリートのひび割れ制御指針」1,986 日本コンクリート工学協会
  

部材が厚くなるほど内部中心温度は高くなる。打込み温度が20℃で部材厚がH=3.5mの場合は図1-1で65.5℃、打込み後45.5℃温度上昇したことになる。断熱温度(46.0℃)に対する比率(以降、断熱比率)は99%で、ほぼ断熱状態にある。H=3.0mでも64.5℃で97%の断熱比率である。リフト割りで上昇温度を抑える場合はリフト高を相当低くする必要がある。部材厚がH=1.0mの場合でも断熱比率は65%程度あり温度上昇量としては決して少なくない。


1.3 内部拘束ひび割れ

コンクリート温度の上昇過程において部材表面温度は大気への放熱により内部温度に比べ低く、内外に温度差が生じる。また、養生材の撤去が早い場合も同様で部材表面が急激に温度低下して温度差が大きくなる。この温度差により部材表面には引張応力が発生し、温度差が大きいとひび割れが発生する。


図1-2 イメージ図 図1-3 内部拘束応力図
 

内部拘束による応力度は、時間経過にともない部材表面は引張応力から圧縮応力へ、部材中心は圧縮応力から引張応力へと変化する。図1.4はあるスラブの温度履歴図である。この履歴図を用いて変化する応力を説明する。


図1-4 スラブの温度履歴
 

図1-5の赤線は温度上昇時と下降時の部材内におけるひずみ分布である。温度上昇時は打込み後を基準とした内部中心ひずみに対し表面ひずみは小さく部材内に相対ひずみ差が生じる。表面は内部膨張につられて引っ張られ、逆に内部中心は表面膨張量が少ないために圧縮されることになる。一方、温度降下時は内部中心ひずみ①は急激に減少し、表面ひずみ②の変化は緩やかである。一般に温度降下時のひずみ変化は図中の①>②であるため、⊿t時間では徐々に内部中心には引張応力が、表面には圧縮応力が発生する。やがて、温度上昇時に生じていた応力度が逆転すると、表面には圧縮応力度が、内部中心には引張応力度が発生する。内部拘束ひび割れが時間経過とともに縮小していく現象はこの応力度の変化によるものである。

温度上昇時は発生したひずみと降下時に発生したひずみが同じとした時、ひずみ量はキャンセルされゼロになる。弾性力学では応力度はひずみ量に弾性係数を乗じて算出され、ひずみ量がゼロであれば応力度の発生はない。しかし、温度応力の場合は内部に圧縮応力度が、表面に引張応力度が発生する。弾性係数は積算温度と強い相関関係にあり積算温度が大きくなるほど増加する。弾性係数は、若材齢の温度上昇時は小さく時間経過とともに大きくなる。したがって、温度上昇時と降下時のひずみが同じであっても部材内には応力度が発生していることになる。 

時刻tの温度応力度は⊿t時間に生じたひずみにその時の弾性係数を乗じた応力度の重ね合わせにより算出される。

  一般に、内部拘束ひび割れはセメント量が多く部材厚が厚い場合に発生しやすい。発生時期は内部コンクリート温度がピークアウトする頃や養生材を撤去した時点で発生することが多い。
図1-5 ひずみ分布図

1.4 外部拘束ひび割れ

外部拘束によるひび割れは、コンクリートの収縮が外部拘束された時に発生するものでフーチング(拘束体)上の竪壁(非拘束体)などのように拘束体が存在する場合に発生する。そのイメージを図1-6に示す。


図1-6 イメージ図

外部拘束によるひび割れは以下のメカニズムで発生する。


Step1:施工直後(時刻 t = 0)

拘束体に打ち継がれた直後、非拘束体の温度収縮や乾燥収縮ひずみは開始前で、接合面での収縮差はまだ始まっていない。

     時刻 t = 0
Step2:時刻 t > 0

時刻t>0 で非拘束体の温度収縮や乾燥収縮は進行する。拘束体の温度は外気温程度であり乾燥収縮は既に進行している。ここで、拘束体の接合面は変形を拘束しないとすると、非拘束体の収縮(⊿L)は自由変形してひび割れることはない。

   時刻 t > 0 拘束なし

しかし、実際には拘束体からの鉄筋や付着などから自由変形は許されない。したがって、非拘束体は拘束を受けることになる。 

釣り合い条件を満足させるために非拘束体には⊿Lを0にする引張力Tが作用していることになる。この引張力に相当するひずみがコンクリートの伸び能力を超えた時に初めて新コンクリートがひび割れることになる。引張力Tはクリープ*1の影響を受け、弾性解析に比べて低減された値となる。

   時刻 t > 0 拘束あり
図1-7 ステップ図

外部拘束応力度は拘束体の剛性に影響され、砂地盤上のフーチングのように拘束度が弱い場合は大きなものにはならない。拘束度は、拘束体と非拘束体の剛性比に影響される。また、構造体の幅と高さの比L/Hにも大きく影響されL/Hが大きいほどひび割れが発生しやすい。一般にひび割れは1H~2Hの間隔で発生する。


*1クリープ:コンクリートの物性のひとつで塑性的な変形能力のことをいう。一般には見掛け上の弾性係数の低減として評価され内部応力が緩和する。もし、コンクリートにクリープがなければひび割れが数多く発生することになる。クリープはひび割れにとって好ましい物性である。

1.5 ひび割れ指数

温度応力がコンクリートの引張強度より小さければひび割れは発生しない。コンクリート標準示方書では、次式を満足すれば一般にひび割れ照査に合格したとされている。



 
ここで、 Icr(t): ひび割れ指数 I(t)=ft(t)/σ(t)
ft(t): 材齢t日におけるコンクリート引張強度
σt(t): 材齢t日におけるコンクリート最大主引張応力度
γcr: ひび割れ発生確率に関する安全係数で、一般に1.0~1.8として良い。

一般的な配筋の構造物における標準的なγcrの参考値を表1-1のように示している。


表1-1 ひび割れ指数の評価
コンクリートの温度ひび割れ評価 ひび割れ指数
(1) ひび割れを防止したい場合 1.75以上
(2) ひび割れ発生をできるだけ制限したい場合 1.45以上
(3) ひび割れの発生を許容するが、ひび割れ幅が過大とならないように制限したい場合 1.00以上

1.6 ひび割れ制御対策

温度ひび割れは部材が大きいほど、外気温が高いほど顕著に現れる。温度ひび割れ防止の基本は以下の通り。

温度上昇量を小さくする。 

温度上昇は単位セメント量に大きく関わるため、できる限り使用セメント量を少なくする。その方策として最大骨材寸法を大きく、スランプを小さく、あるいはAE減水剤や高性能AE減水剤を用いるなど配合設計上の工夫が必要である。

温度降下速度を緩やかにする。 

温度降下を緩やかにするには保温養生が基本である。緩やかにコンクリート温度を外気温に近づけることが大切である。拘束応力の発生に先行してコンクリート強度を発現させることがよく、養生期間の延長も効果的な方策のひとつである。養生材撤去はコンクリートの表面温度が外気温相当になった時が理想的である。


温度制御技術を以下に示す。


図1-8 ひび割れ制御技術

1.6.1 材料・配合

  マスコンクリートではできるだけ発生する水和熱が少ないセメントを用いるのが望ましい。図1-9に各種セメントの単位セメント量が300kg/m3で打込み温度が10℃の場合の断熱温度特性図を示す。

図1-9 各種セメントの断熱温度特性図

低発熱セメントには中庸熱ポルトランドセメントや低熱ポルトランドセメントがある。また、上昇温度を抑制する方策として単位セメント量を低減する方法もある。コンクリートの発熱量はセメント量に比例して多くなり、一般には単位セメント量10kg/m3に対して1℃程度上昇するといわれている。単位セメントの低減方法には粗骨材の最大寸法を大きくする。あるいは高性能減水剤、流動化剤などを使用して単位水量を低減し単位セメント量を減じる方法もある。その他に、構造物のひび割れ抑制に対しては膨張材や収縮低減剤、繊維補強コンクリートなどの使用がある。


1.6.2 施工

マスコンクリートの施工上の基本は、①打ち込み温度を低減し、②温度上昇量の抑制と、③緩やかに温度降下させることにある。その対策として、①はプレクーリング、②はパイプクーリングやリフト割り、ブロック割りの縮小化、③は保温養生などがある。

プレクーリングはコンクリート製造の際にあらかじめ材料を冷却し練り上がり温度を低くする方法である。コンクリートの打込み温度を低くすることでコンクリート温度を低減させ部材の内外温度差や最高温度を低くし内部拘束応力や外部拘束応力を小さくすることができる。材料別による冷却効果は、骨材を-2℃、水を-4℃、セメントを-8℃変化させると練り上がり温度はそれぞれ-1℃低減することができる。コストパフォーマンスは-5℃程度といわれている。打込み時のコンクリート温度は運搬距離や運搬方法、気象条件により変化し、その程度は1時間につきコンクリート温度と周囲の気温との差の15%程度である。


T2=T1±0.15(T1-T0)・t
 
ここで、 T0: 周囲の気温(℃)
T1: 練り混ぜ時のコンクリート温度(℃)
T2: 打込み終了時のコンクリート温度(℃)
t: 練り混ぜから打ち込み終了までの時間(h)

練り混ぜ時のコンクリート温度は、これらの条件を考慮して設定する必要がある。

 

リフト割り(ブロック割り)は打ち込み容積を少なくして上昇温度を抑制する方法である。打ち込まれたコンクリートの上昇温度はその容積により変化する。その容積が大きいほど最高温度は高くなるが、最少部材厚が3.0m近くになると内部中心温度は断熱温度近くまで上昇する。薄い部材の場合は薄い断面方向の放熱が大きいためにリフト割りを変化させても内部の最高温度の変化は小さい。また、リフト高を低くして上昇温度を抑えても外部拘束応力が大きくなり、リフト高の制限は必ずしも有利となりえない。温度に関するリフト割りは総合的に判断する必要がある。

保温養生は、内外温度差を少なくするとともに温度降下速度を緩やかにする効果がある。コンクリートは打設直後の比較的早い時期から水和反応により蓄熱される。コンクリート表面は外気に接しているために放熱が大きく部材内部と温度差ができ内部拘束によるひび割れが発生しやすい。これを防止するには保温性のよい型枠を用い放熱を極力抑制することが望ましく放熱性の高い鋼製型枠は用いない方がよい。保温性の高い型枠を用いたときには存置期間を長くするのがよくコンクリート温度が高い時期に脱枠すると表面温度が急速に低下してひび割れが発生することがある。「寒中コンクリート施工指針・同解説」日本建築学会ではACIの「寒中コンクリート」抄訳として表1-2の値を紹介している。しかし、温度ひずみは内外拘束による累積ひずみであるために同表は危険な場合もある。保温養生の継続期間は温度応力解析により設定することが望ましい。また、脱枠後の養生は直接外気(風)に当たらないように湿潤状態を保ちながら緩やかに外気温に近づけるのが基本である。コンクリート温度と外気温の状況により脱枠後の急冷を防止するために取り外し後もシート等で保温を継続するのがよい。


表1-2 養生打ち切り後最初の24時間以内の温度降下の許容最大値
断面寸法の最小値(mm)
<300 300~900 900~1800 >1800
28℃ 22℃ 17℃ 11℃

1.6.3 設計

マスコンクリートで材料や施工で対策を講じてもひび割れを制御することが難しい場合がある。その場合にはひび割れ誘発目地の設置やひび割れ抑制鉄筋を配置してひび割れ幅を制御する方法などが考えられる。

ひび割れ誘発目地は設置箇所にひび割れを集中させ他の部分にひび割れを発生させない方法である。誘発目地は温度応力によるひび割れだけでなく乾燥収縮によるひび割れにも同様な効果がある。一般にひび割れはコンクリート部材高(H)の1H~2Hの間隔に入るために、誘発目地も同程度の間隔に配置されることが多い。その断面欠損率も30~50%程度がよいとされている。水密を要する構造物の誘発目地には止水版を設置して止水対策を施しておくのが望ましい。

ひび割れ制御鉄筋はひび割れを分散させ有害なひび割れ幅とならないように制御する方法でマスコンクリートのひび割れ対策として一般に採用されているものである。鉄筋比で0.6%程度を配置することで多くの場合はひび割れ幅を0.2mm以内に制御することができる。



ひび割れ誘発目地 樹脂型枠
文献紹介
膨張剤 保温湿潤養生マット
漏水を防止する止水型ひび割れ誘発目地材
繊維補強コンクリート ガラス繊維補強材 高性能AE減水剤 流動化剤
初期収縮低減剤  低熱セメント    

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2. プラスチックひび割れ


2.1 概要

打込み後、まだコンクリートが十分に硬化していないプラスチックな状態でコンクリートの表面が乾燥するとセメント分が収縮して表面に不規則なひび割れが発生することがある。このひび割れはプラスチックひび割れと呼ばれ、一般に夏期施工で発生しやすい。しかし、冬期施工であっても養生が不適切であると発生することもある。このひび割れの特徴としては比較的細かく、浅いひび割れとなる場合が多い。


2.2 フレッシュコンクリートの水分蒸発量

フレッシュコンクリートの収縮ひび割れは、ブリージングの蒸発によるものでなく、練り混ぜ水の速い蒸発によってコンクリートが収縮してひび割れるもので、水セメント比が小さくほとんどブリージングがないコンクリートでも発生する。写真2-1は、水セメント比35%のモルタルに発生したひび割れである。

プラスチックひび割れは、コンクリート表面からの水分蒸発量が大きい場合に起きやすく、一般に水分蒸発量が1.0~1.5kg/m2・hを上回ると発生する危険性は高いといわれている。図2-1にフレッシュコンクリートからの水分蒸発量の計算図表を示す。


図2-1を見ると、水分蒸発量は外気温、湿度、コンクリート表面温度、風速などの影響を受ける。特に、風速の影響が大きく、冬期施工であっても5m/s程度のの風速に表面が曝されると、水分蒸発量は1.0kg/m2・hを超え、ひび割れが発生する危険性が高くなることがわかる。


図2-1   フレッシュコンクリートからの水分蒸発量の計算図表 写真2-1 プラスチックひび割れ

 練り混ぜ水の蒸発は、ブリージングの少ないコンクリートほど顕著である。ここに、「暑中コンクリートの設計指針・同解説」日本建築学会から水セメント比がブリージング挙動に及ぼす影響について図2-2を示す。

これによると、水セメント比が55%のとき、コンクリート表面の水分蒸発量が6時間を超えるとブリージング水量を上回り、ブリージング水が消失する時点となる。すなわちコンクリート表面が乾燥し始める時点であり、少なくともこれ以前に湿潤状況を確保する必要があることになる。

同表は、試験体によるもので、図2-1に示された風速などの影響は考慮されたものではないことに留意されたい。

図2-2 水セメント比がブリージング挙動に及ぼす影響

2.3 防止対策

このひび割れの防止対策は、前項で述べた水分蒸発量を少なくすることで、具体的には以下の対策となる。


直接、日射を与えない配慮や防風対策を十分に行う。
表面仕上げの後、できるだけ早期に湿潤養生を開始し、通気性ないポリフィルムやブルーシート等で覆う。

水セメント比の小さいコンクリートや流動化されたコンクリートはブリージングが少ないため、夏期施工では、特に初期の養生を十分に行う必要がある。



仕上げ補助剤      

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3. 沈降ひび割れ


3.1 概要

コンクリートは打設直後からブリージングが上昇し、それに伴いコンクリートは沈降する。この時に鉄筋や型枠形状などにより沈降が拘束されると沈降ひび割れが発生する。一般にブリージング量が多くなる冬期施工によく見られる初期損傷のひとつである。このひび割れの特徴として、ひび割れ幅が大きくなるとひび割れ面はささくれた状況になることもある。通常、コンクリートを打ち込んでから硬化するまでに発生する。


3.2 ひび割れ発生要因

沈降ひび割れは以下の要件で発生しやすい。

低い温度(ブリージングが多く、凝結も遅い)
締め固め不足
沈降を妨げる拘束物や型枠形状
打込み高さの違い
打込み速度が速い
早い仕上げ

具体的事例として、型枠形状や打込み高さの違いにより生じるひび割れを図3-1に、Pコンにより沈降が拘束されたひび割れを写真3-1に示す。「続・コンクリート診断士は見た!」[D02][D07]参照


図3-1 相対沈降差によるひび割れ 写真3-1 Pコン下に発生したひび割れ

また、沈降ひび割れはかぶりが小さくスランプが大きいほど、鉄筋径が太いほど発生しやすい。表3-1にその関係による発生確率を示す。


表3-1 コンクリートの沈降に伴う鉄筋径別のひび割れ発生確率(%)
 かぶり
 (mm)
スランプ 5cm スランプ 8cm スランプ 10cm
13mm 16mm 19mm 13mm 16mm 19mm 13mm 16mm 19mm
20 80.4 87.8 92.5 91.9 98.7 100 100 100 100
25 60 71 78.1 73 83.4 89.9 85.2 94.7 100
40 18.6 34.5 45.6 31.1 47.7 58.9 44.2 61.1 72
50 0 1.8 14.1 4.9 12.7 26.3 5.1 24.7 39
出典:NCHRP 297,Table4

3.3 防止対策

このひび割れの防止対策は、ブリージングの少ない配合にすることや沈降を抑制する打設法を採用することにある。具体的には、できるだけ単位水量の少ないコンクリートとし、上部コンクリートを打ち込む前に、コールドジョイント[Q14図-1参照]が発生しない範囲で一旦打込みを停止し、下部コンクリートの落ち着きを待って打ち込むのがよい。仕上げ前の再振動も有効である。また、ひび割れが発生した時点では、タンピングにより消すことも可能である。


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4. 打重ねの不適によるひび割れ(コールドジョイント)


4.1 概要

コンクリートの打重ねる時間の間隔が許容打重ね時間を超えた場合に、後に打ち込まれたコンクリートと一体化しない不連続な面が形成され、構造物として耐久性や水密性を低下させる原因となる。壁構造の場合は、壁を貫通している場合が多く漏水する可能性は高い。コールドジョイントは、凝結が早い夏期施工で発生しやすい初期損傷のひとつである。


4.2 許容打重ね時間

許容打重ね時間は、コンクリート標準示方書では外気温が25℃を超える場合は2.0時間、25℃以下であれば2.5時間とし、JASS5では外気温が25℃以上の場合は2.0時間、25℃未満の場合は2.5時間を目安としている。一般に、プロクター貫入抵抗値が1.45psi以内であればコールドジョイントの発生はなく、145psiを超えると発生する危険性は高いといわれている。図4-1に高炉セメント300kg/m3使用時の外気温と凝結時間の関係を示す。


写真4-1 橋脚に発生したコールドジョイント
図4-1 外気温と凝結時間の関係

図4-1の打込みからの貫入抵抗値1.45psiの凝結時間に運搬時間の1時間を加えると、コンクリート標準示方書の許容打重ね時間とほぼ一致する。コールドジョイントは凝結時間と密接な関係にあるために凝結状況を把握した打設計画(例えば、打重ね時間間隔が短くなるような打込み区画の計画やコンクリートの沈み変形を待って打設するなど)が大切である。


4.3 防止対策

コールドジョイントの防止対策は、許容打重ね時間を遵守することや必要に応じて遅延剤を使用すること、また締め固めは棒状振動機を下層コンクリートに10cm程度挿入し振動させるなど上下層の一体化を図ることが重要で、再振動も有効な防止対策のひとつである。


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5. 打継ぎの不適によるひび割れ


5.1 概要

打継ぎは硬化した状態にあるコンクリートに接して新たなコンクリートを打ち込む行為であり、打重ねはコンクリートの凝結が進んでいる状態にあるコンクリートに新たなコンクリートを打ち込む行為である。打継ぎと打重ねは新旧コンクリートの時間間隔が大きく異なる。打継ぎは打重ねと異なりコンクリート表面に発生した強度の低い弱層(レイタンス)を取り除く必要があり、これを怠るとせん断伝達能力や引張強度が低下し構造的な弱点となる。打継ぎ面が一体化していないと水密性を損ないその箇所から漏水する可能性は高い。また、打重ねの不適(コールドジョイント)と同様に通常のコンクリート表面からの中性化とは別に、中性化の進行が構造物の内部まで生じ、十分なかぶりを確保していたとしても中性化を防止できず、構造物中の鋼材腐食を早期に起こし構造物の耐久性を低下させ、さらに有害物のコンクリート内部への浸透を容易にし、構造物中にある鋼材の腐食やコンクリートの劣化を促進させる原因となる。


5.2 打継ぎ面の処理方法と引張強度の関係

打継ぎ面はレイタンスを取り除き一体化することが大切で、その処理方法で打継ぎ面の強度は変化する。表5-1に処理方法と引張強度の関係を示す。


表5-1 打継ぎ面の処理方法と引張強度の関係
  処理方法 引張強度の
百分率(%)
水平打継ぎ面 レイタンスを取り除かない場合
打継ぎ面を約1mm削った場合
打継ぎ面を約1mm削り、セメントペーストを塗った場合
打継ぎ面を約1mm削り、セメントモルタルを塗った場合
打継ぎ面を約1mm削り、セメントモルタルを塗って打継ぎ、約3時間後に再振動した場合
45
77
93
96
100
垂直打継ぎ面 ●打継ぎ面を水で洗った場合
打継ぎ面へモルタルまたはペーストを塗った場合
打継ぎ面を約1mm削り、セメントペーストまたはモルタルを塗った場合
打継ぎ面を凹凸に削り、セメントペーストを塗った場合
打継ぎ面へモルタルまたはペーストを塗って打継ぎ、コンクリートが流動化する最も遅い時期に再振動した場合
60
80
85
90
100
(注)引張強度は打継ぎのない場合を100%とした場合   出典:コンクリート工学ハンドブック

5.3 防止対策

 

防止対策は表5-1を参照。なお、レイタンスの取り除き(グリーンカット)は、硬化前に行う場合と硬化後に行う場合があり、硬化前に行う方法は打継ぎ面が広い場合に効率的な方法であるが、あまり早い時期にを行うと骨材を緩め、余分にコンクリートを取り除く恐れがある。通常は、コンクリートの凝結終了を待って行い、高圧の水などで表面の薄層を取り除く。また、作業上の都合からコンクリート表面に遅延剤を散布して、凝結を遅らせて時間調整することも可能である。

硬化後における処理方法は、旧コンクリートがあまり硬くなくて、旧コンクリートの品質が満足なものであれば、高圧の水などでコンクリートの薄層を除去し、粗骨材粒を露出させる方法もある。

写真5-1 カルバート頂部に発生した漏水

一般には、水をかけながら表面をワイヤブラシその他で十分にこすって粗にする。旧コンクリートが硬い時は、表面にサンドブラストを行った後、水で洗う方法が最も確実である。


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6. 初期凍害ひび割れ


6.1 概要

コンクリートの凝結・硬化過程で1~数回の凍結融解作用を受けて強度低下や破損を起こす現象を「初期凍害」といい、十分硬化したコンクリートが凍結融解の繰り返しを受けて劣化する「凍害」とは区別される。初期凍害を防止するには数回の凍結融解作用に耐えれるまで保護する必要があり養生等の施工管理が重要である。

水が凍結して氷になると体積は9%程度膨張する。コンクリートが凍結時の水圧に耐えられない場合は、そのコンクリートは膨張し融解後もその膨張は残留する。これは組織の緩みであり、ここに新たに水が供給されると残留膨張は凍結融解の進行につれて累加されていく。組織の崩壊はこの累加された残留膨張がコンクリートの形状を保つことができなくなった段階で生じる。

凍害の劣化は、ひび割れや剥落・崩壊で、もうひとつは表層コンクリートのスケーリングである。初期凍害は亀甲状のひび割れとして現れることが多い。一般に、南面に多く発生する。南面は夜間に凍結し、日中に日射の影響を受けて凍結融解回数が多くなるためである。


6.2 寒中コンクリートの問題点

   コンクリートの打込み後初期材齢において一度でも凍結するとコンクリートは初期凍害を受け、その後適切な温度で養生をおこなっても強度、耐久性、水密性などコンクリートの品質は著しく低下する。
写真6-1 初期凍害ひび割れ

6.3 防止対策

コンクリート標準示方書では日平均気温が4℃以下となる時期を、Jass5ではコンクリート打込み後、材齢28日までの積算温度Mが370°D・D(平均外気温3.2℃)以下の期間を寒中コンクリートとして取り扱うことになっている。

初期凍害を防止するためにAE減水剤の使用と適切な養生対策が必要で、コンクリート標準示方書では、表6-1に示す圧縮強度が得られるまでコンクリートの温度を5℃以上に保ち、さらに2日間は0℃以上保つことを標準としている。

表6-1 厳しい気象作用を受けるコンクリートの養生終了時の所要圧縮強度の標準(N/mm2)
構造物の露出状態 断面
薄い場合 普通の場合 厚い場合
(1) 連続して、あるいはしばしば水に飽和される場合 15 12 10
(2) 普通の露出状態にあり、(1)に属さない場合 5 5 5

一方、JASS5では、打ち込まれたコンクリートの圧縮強度が軽微な凍結期で3.5N/mm2が得られるまで、凍結作用期で5N/mm2が得られるまでどのような部分についてもコンクリートが凍結しないことにしている。


初期養生の方法を図6-1に示す。


図6-1 初期養生の方法(日本建築学会資料)

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7. 凍害ひび割れ


7.1 概要

コンクリート温度が-2℃程度になると内在する水分は凍結し9%膨張する。この膨張圧によりコンクリートの組織が破壊されるとひび割れが発生する。凍結融解を繰り返すとコンクリートの組織が緩み、コンクリートの圧縮強度や静弾性係数は低下する。(Q24参照)

劣化過程は、微細なひび割れからスケーリング、浮き、剥落へと進展する。スケーリングが発生する進展期から劣化速度は速まる。劣化状況によりD11表-1の対策が必要となる。

一般に、凍害は凍結融解回数の多い南面に発生しやすい。


7.2 凍害発生の危険地域

凍害発生の危険性地域として代表的なものに凍害危険度マップ(図7-1)がある。これは各地域の毎日の外気温に日射の影響も考慮して年間の凍結融解繰り返し日数を求め、氷点下の温度差による影響も考慮し、さらにグレード分けしたものである。図によれば、寒さの厳しい北海道から東北地方をはじめ、温暖地でも内陸部や山間部で凍害の危険性があることが分かる。


図7-1 凍害危険度マップ

7.3 ひび割れ事例


 
写真7-1 天端に発生した亀甲状ひび割れ 写真7-2 側面に発生した水平ひび割れ
写真7-3 コンクリートの崩落 図7-2 水平ひび割れが発生するイメージ図

一般に、凍害は天端では亀甲状に、側面では水平方向にひび割れが発生する。水平方向に発生するイメージを図7-2に示す。これは、コンクリート内に浸透した水が水平方向に滞水することにより起こるものである。写真7-3は大きく断面欠損したもので劣化期にある。


7.4 防止対策

凍害はコンクリート中のエントレインドエアが少ない場合に生じやすいく高強度コンクリートの場合は凍害を受けにくい。また、空気量は少なすぎ、あるいは多すぎても凍害抵抗性が小さくなる。通常、3~6%の範囲で空気を連行することが必要である。凍害防止対策の基本はできるだけ水セメント比を小さくして蜜実なコンクリートとし、適度の微細気泡を有するAEコンクリートにすることにある。


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8. 乾燥収縮ひび割れ


8.1 概要

コンクリートは時間の経過に伴って乾燥により収縮する。乾燥収縮はコンクリート中のセメントペーストが乾燥することにより収縮するもので、この収縮が何らかの拘束を受けるとひび割れが発生する。このひび割れも温度ひび割れと同様に内部拘束によるものと外部拘束によるものがありそのひび割れ形態は異なる。


8.2 乾燥収縮に及ぼす要因

乾燥収縮量は多くの要因により変化する。その代表的な要因を表8-1に示す。


表8-1 乾燥収縮量に及ぼす要因
① 仮想部材厚(部材の断面積/外気に接する周長)が小さいほど大きい
② 相対湿度が低い環境ほど大きい
③ 温度が高い環境ほど大きい
④ 単位水量が多いほど大きい
⑤ 鉄筋比が少ないほど大きい
 

8.3 乾燥収縮の進行度

乾燥収縮は仮想部材厚が小さいほど、相対湿度が低いほど、温度が高いほどその進行度は早い。具体的な例として図表8-1を示す。


図表8-1 乾燥収縮の進行度(コンクリート温度20℃、相対湿度70%)
Case 部材形状 部材の断面積 外気に接する周長
Case.1 0.100×1.000m 0.100m2 2.200m
Case.2 1.000×1.000m 1.000m2 4.000m

図表8-1は、道路橋示方書・同解説[共通偏]平成14年度版により算出したもので、コンクリートのクリープによる応力緩和は既に考慮されている。同図によると部材厚が薄ければ薄いほど乾燥収縮量は大きくその進行度は早い。同じ配合のコンクリートであっても部材厚が異なる場合や同じ部材厚であってもその環境が異なれば乾燥収縮差が生じひび割れ発生の原因になる。


8.4 ひび割れ発生メカニズム


8.4.1 内部拘束ひび割れ

   コンクリートの表面は内部と比べて早く乾燥するために内外で収縮差が生じる。この収縮差により表面にひび割れが発生するもので比較的に初期の段階で発生する。このひび割れは深さが浅く亀甲状に発生することが多い。
写真8-1 内部拘束によるひび割れ

8.4.2 外部拘束ひび割れ

   フーチング上の竪壁や床版上の壁高欄など表8-1に示す要因が異なる場合、同じ配合でも終局乾燥収縮量やその進行度は変化する。乾燥収縮量の大きい部材は収縮拘束を受けその応力が引張強度を超えた時にひび割れが発生する。写真8-2は拡幅床版に発生した外部拘束ひび割れ事例である。旧床版の乾燥収縮は既に終了しているために新コンクリートとの収縮差は大きくエフロレッセンスの析出などからひび割れは貫通していることになる。このほか建築物の窓開口部などに発生する斜めひび割れなどこの種のひび割れは多く見られる。
写真8-2 外部拘束によるひび割れ

8.5 防止対策

乾燥収縮応力度で、①クリープによる応力緩和を50%、②収縮を拘束する構造物の拘束度を50%、③乾燥環境による蒸発逸散水を50%とし、コンクリートの伸び能力を100μとすると、乾燥収縮ひずみが800μを超えるとひび割れが発生する。図8-1に全国のレディーミクストコンクリートの乾燥収縮ひずみの測定例を示す。平均ひずみは729μであり、800μを超えるものも相当数存在する。コンクリート施工では、このひずみに温度ひずみが加わるためにコンクリートからひび割れを避けること一般に難しい。

図8-1 乾燥収縮ひずみ測定例

表8-2 乾燥収縮の抑制対策
① 乾燥収縮の小さい骨材を使用する ・ 石灰石骨材への骨材置換(600~700μの実現)
② 単位水量を低減する ・ 最大骨材寸法の大きい骨材の使用
・ 減水剤の使用
③ 乾燥による逸散水を抑制する      ・ 十分な湿潤養生
・ 日射および防風対策
・ 型枠の存置期間の延長
・ 収縮低減剤の使用(15~30%の低減)
④ 膨張剤を使用する ・ 150μ以上の低減
⑤ 繊維補強コンクリートとする  

実際の抑制対策は①~⑤の組み合わせで行われる。また、固定ウイングを有する竪壁のように外部拘束ひび割れ懸念される構造物ではひび割れ制御鉄筋やひび割れ誘発目地などの事前検討を行うことが望ましい。



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