D01:橋脚のリフト天端から下方に向かい発生したひび割れ(温度ひび割れ) |
脱枠直後に診断士は異様なひび割れを見た。各リフト天端から数本のひび割れが下方に向かい発生していた。 |
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【D01写真-1の観察】
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柱正面の縦方向ひび割れ |
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ひび割れは正面に見られるが側面には発生していない。 |
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正確な発生時期は不明であるが、脱枠時には既に確認されている。 |
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ひび割れは各リフトの天端から下方に向かい発生し中程に止まっている。 |
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ひび割れ幅は0.2mm以下で脱枠後、時間経過とともに縮小している。 |
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D01写真-1 リフト天端に発生したひび割れ |
当該構造物の断面は、6.50m(幅)×3.0m(奥行き)で、柱高さ22.6mを5リフトで施工したもので、脱枠時には既にひび割れが確認されている。ひび割れは規則性があり、リフト天端から発生し、すべて中程にとまっている。特徴的なことは、ひび割れ幅が時間経過とともに縮小している点である。
ひび割れ原因は、ひび割れ形態や発生時期より温度ひび割れと推測される。そのメカニズムは、打ち重ねるコンクリートの水和熱により先行リフトの天端が熱影響を受け、その時の膨張ひずみが下方に拘束されたものである。D01図-1その概念図を示す。
打ち重ねるコンクリート温度は、①暑中コンクリートであるために打ち込み温度が高いこと、②部材最小断面が3.0mであることから内部温度は断熱温度近くまで上昇すること、③単位セメント量が320kg/m3で比較的富配合であることなどから、ピーク温度はおよそ80℃近くまで上昇することになる。
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D01図-1 打ち重ねる場合に想定されるひび割れ |
D01図-2 温度履歴図 |
D01図-2の温度履歴を観察すると、先行リフトの中心温度(水色)はリフト打設後もほとんど変化していないが、リフト天端(桃色)は大きく上昇している。ひび割れは、この温度の変化差によるひずみが拘束されて発生したもので、ピークアウト後は急激に温度差が減少するためにひび割れ幅も縮小することになる。したがって、今後のひび割れ幅は進展性がなく、コンクリート標準示方書[設計編]での耐久性上の許容ひび割れ幅は0.4mm(かぶりC=100mm)であることから、現状の0.2mm以下は特に問題となるものではない。
補修対策の工法分類をD01表-1に示す。
補修目的 |
ひび割れの現象・原因 |
ひび割れ幅
*1(mm) |
補修工法*2 |
表面処理工法 |
注入工法 |
充填工法 |
その他の工法 |
浸透性防水剤の塗布工法 |
その他 |
防水性 |
鉄筋が腐食していない場合 |
ひび割れ幅の変動・小 |
0.2以下 |
○ |
△ |
|
○ |
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0.2~1 |
△ |
○ |
○ |
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ひび割れ幅の変動・大 |
0.2以下 |
△ |
△ |
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○ |
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0.2~1 |
△ |
○ |
○ |
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耐久性 |
鉄筋が腐食していない場合 |
ひび割れ幅の変動・小 |
0.2以下 |
○ |
△ |
△ |
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0.2~1 |
△ |
○ |
○ |
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|
1以上 |
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△ |
○ |
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ひび割れ幅の変動・大 |
0.2以下 |
△ |
△ |
△ |
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0.2~1 |
△ |
○ |
○ |
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|
1以上 |
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△ |
○ |
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鉄 筋 腐 食 |
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- |
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|
○ |
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塩 害 |
|
- |
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● |
反応性骨材 |
|
- |
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● |
(注) |
*1 |
ひび割れ幅3.0mm以上のひび割れは、構造物の欠陥を伴うことが多いので、ここで表示している補修工法だけでなく、構造耐力の補強を含めて実施されるのが普通である。 |
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*2 |
○印: |
適当と考えられる工法 |
△印: |
条件によっては適当と考えられる工法 |
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●印: |
研究段階の工法 |
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出展:コンクリート診断技術'02 日本コンクリート工学協会 |
D01表-1によると当該ひび割れに関する補修対策工法は、表面処理工法と浸透性防水塗布工法になる。
■表面処理工法(表面塗布工法)
表面処理工法は、微細なひび割れ(一般に、幅0.2mm以下)の上に、ひび割れ追従性に優れた表面被覆材や目地材などを塗布する工法で、ひび割れ部分のみ被覆する方法と全面を被覆する方法がある。
■注入工法
注入工法は、0.2mm以上のひび割れ幅に対して有効である。充填剤にはエポキシ樹脂やポリマーセメントなどがあり、材料の選定には施工時の気温や施工部の湿潤状態などに留意する必要がある。近年ではひび割れ幅が0.05mmでも注入できる超微粒子系ポリマーセメントも開発されている。
■充填工法
充填工法は、0.5mm以上の大きなひび割れに適用される工法である。ひび割れに沿って約10mmの幅でコンクリートをUまたはV形にカットし、その部分に補修材を充填するもので、ひび割れが時間経過にともない開口する恐れがある場合には、ウレタン樹脂やシリコン樹脂など柔軟な材料を用いる。
■その他の工法
ひび割れに対するその他の補修工法としては、シリコーン系やシラン系の浸透性吸水防止材による含浸塗布工法などがある。
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