S01:PC連続桁の変曲点近傍に発生した橋軸直角方向ひび割れ(曲げひび割れ) |
通常は、ひび割れが発生しないPC構造物に診断士は異様なひび割れを見た。変曲点近傍の底版に橋軸直角方向ひび割れが発生していた。 |
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【S01写真-1の観察】
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橋軸直角方向ひび割れ |
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側径間の変曲点近傍で、橋軸直角方向にひび割れで底版の全幅にわたり発生している。 |
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側径間ともに同様のひび割れがみられる。 |
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最大ひび割れは0.4mm程度である。 |
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S01写真-1 変曲点近傍に発生したひび割れ |
変曲点は中間支点より支間長の2割位置に相当し正負の曲げモーメントが交番する箇所である。その近傍の曲げモーメントは小さく通常は曲げひび割れが生じにくいところである。当該橋梁はPC構造物で変曲点近傍のPC鋼材は曲げモーメントと相似するように部材下縁から上縁へと変曲して配置されている。発生曲げモーメントが小さいために変曲点近傍はPC鋼材を断面図心近くにまとめて配置される傾向がある。図心近くにまとめられたPC鋼材により導入されるプレストレスは、軸力が主体で偏心効果による導入応力は小さい。
一般にPC構造物はPC鋼材を偏心配置して効果的にプレストレスが利用されるが、図心近くに配置されたPC鋼材は導入されるプレストレス量は少ない。PC構造物はRC構造物と違い部材に配置される鉄筋量は少ない。変曲点は死荷重モーメントがゼロでも活荷重モーメントにより応力は交番する。したがって、変曲点近傍ではPC鋼材をある範囲に分散配置させるか、軸方向鉄筋を十分に配置し曲げ耐力を確保する必要がある。
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(A) ひび割れが発生しやすいPC鋼材配置 |
(B) ひび割れが発生しにくいPC鋼材配置 |
一般に、変曲点近傍のPC鋼材はS01図-1(B)のように部材上下縁近くに分散させ、ひび割れの発生しにくい配置とされるが、当該橋梁ではその分散度合いは小さくひび割れ発生のしやすい(A)配置となっていた。
曲げとせん断が同時に作用すると部材引張部は曲げモーメントによる引張力のほかにせん断による引張力が付加される。変曲点近傍は曲げモーメントが小さくてもせん断力が比較的大きい箇所であり、このような箇所でのせん断による付加引張力と曲げ引張力の割合は、その他の箇所に比べ大きなものになる。このため、設計では見掛け上の設計曲げモーメントをシフトルールにしたがって算出し応力照査が行われる。
シフトトルール: |
設計断面での応力照査は部材の有効高dだけ曲げモーメントの増加する方向へ平行移動した曲げモーメントで応力度の照査を行う方法 |
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シフト量:道路橋示方書はシフト量として有効高さdを採用している。しかし、せん断力により付加される引張力の割合は、先に述べたように変曲点近傍では大きくなる。レオンハルト著「プレストレストコンクリート」鹿島出版によれば連続桁の変曲点近傍では1.5dを採用することが望ましいと提言している。ここでは、大きなひび割れ(Max=0.4㎜)が生じている状況を考慮して1.5dを採用すると変曲点近傍の応力度は許容応力度を大きく超過していたことになる。
S01図-3の⑧断面は変曲点近傍の設計図書における設計断面である。
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S01図-2 シフトした曲げモーメント図 |
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S01図-3 ⑧断面にシフトさせるモーメント位置(▼) |
建設当時の示方書ではこのようなシフトルールの考えはなく、昭和に建造された構造物は変曲点近傍でプレストレス量や軸方向鉄筋量が不足している場合もある。
代表的なコンクリート構造物の補強工法としては、鋼板接着工法やFRP接着工法、増厚工法、外ケーブル工法などがある。
■鋼板接着工法
鋼板接着工法は、コンクリート表面に鋼板を取り付け、鋼板とコンクリートの空隙に注入用接着剤を圧入し、補強部材を接着させて既設部材と一体化させることで耐力の向上を図る工法である。補強工法としては先駆的で使用実績は多い。
■FRP接着工法
FRP接着工法は、連続繊維を1方向あるいは2方向に配置してシート状にした補強材を接着して、既設部材と一体化させ耐力の向上を図る工法である。連続シートには、炭素繊維やアラミド繊維などがある。
■増厚工法(上面増厚工法、下面増厚工法)
一般に、RC床版の補強などに多く用いられている工法である。上面増厚工法は、床版の上面を増厚するもので繊維コンクリートが用いられている。下面増厚工法は、床版の下面を増厚するものでポリマーセメントモルタルが使用されている。
■外ケーブル工法
外ケーブル工法は、緊張材を部材外に配置して補強部材にプレストレスを導入する工法で大断面の補強に適している。緊張材にはPC鋼材のほかにアラミド繊維なども用いられている。最近は炭素繊維プレート緊張材を用いた工法(アウトプレート工法)も開発されている。
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